「Mother Earth」で表示される地球。動物の生息地にアイコンが配置されている
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地球上のアイコンをクリックすれば、動物の詳細情報が見られる
地球上のアイコンをクリックすれば、動物の詳細情報が見られる
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会見は動物園で行われた。左から小菅園長、ヒューストン社長、西川将人旭川市長、古川AICT会長
会見は動物園で行われた。左から小菅園長、ヒューストン社長、西川将人旭川市長、古川AICT会長
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「今回のWebサイトは、世界的に見ても数少ない事例だ」と語るヒューストン社長
「今回のWebサイトは、世界的に見ても数少ない事例だ」と語るヒューストン社長
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「動物や地球について気づき、考えるきっかけにしてほしい」と話す小菅園長
「動物や地球について気づき、考えるきっかけにしてほしい」と話す小菅園長
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小菅園長から動物園の案内を受けるヒューストン社長(この写真はマイクロソフト提供)
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 北海道旭川市の旭山動物園、旭川ICT協議会(AICT)およびマイクロソフトは2007年4月25日、Windows Vistaの画面描画機能「Windows Presentation Foundation(WPF)」を利用したWebサイトを公開した。Webサイトのタイトルは「Mother Earth~母なる地球」。立体で表現された地球上に、生息地に応じて動物のアイコンが配置され、それぞれをクリックすることにより詳細情報を見られるという内容だ。同日、マイクロソフトのダレン・ヒューストン社長や旭山動物園の小菅正夫園長らが旭山動物園で記者説明会を開催。Webサイトに込めたメッセージや、開発中の裏話を披露した。

 Mother EarthのWebサイトにアクセスすると、ゆっくりと回転する立体の地球が現れる。動物のアイコンをクリックすると、その動物に関するコンテンツを表示する画面に切り替わり、動物の体の各部の説明が見られる。さらに、旭山動物園で観察できる動物の生態を見ることもできる。同園での展示の様子や、動物を記録した映像などを視聴できる。

 このWebサイトは、旭山動物園、AICT、マイクロソフトの3者の共同作業により開発された。企業活動「Plan-J」などの取り組みを通じて地方都市へのITの普及啓蒙を図るマイクロソフトと、ITによる地方経済の振興を目指すAICT、さらに「動物本来の姿は、画面を通じてではなく動物園に来て本物を見てもらうのが一番。だた、新しい技術を使えば、来たことのない人にも我々のメッセージが伝えられる」(小菅園長)という旭山動物園の思いが重なり、今回のプロジェクトに結びついた。

 旭山動物園は、動物の姿形を見せるだけでなく、動物が自然の中で活動しているのと同じ様子を公開する展示方針で知られる。今回のWebサイトの開発においても、動物本来の姿を伝え、動物との共生を意識してほしいという旭山動物園のメッセージを伝えることを何より重視した。そのために不正確な表現を排除し、地球や動物を的確に理解してもらえるよう工夫した。例えば、Mother Earthで最初に表示される地球には、地軸の傾きが表現されている。またこの地球はマウスで回転させられるが、自転と逆方向にはうまく動かせないように作られている。ホッキョクグマの生息地は北極の極地ではなく、北極海の周辺に設定されている。これらは「自然を扱う上では絶対に守らなければならないことだ」(小菅園長)。

 こうした細かな点を動物園側が指摘し、開発側が修正するという作業の繰り返しだった。「細かな指摘のしすぎで担当者には嫌がられたかもしれないが、指摘すればすぐに修正された。これが、技術のすばらしい点だと思う」と小菅園長。ヒューストン社長も、このWebサイトが2カ月で完成したことを紹介し、「WPFがあれば、その上にコンテンツを積み上げればよい。従来なら、このようなWebサイトを作るには何カ月もかけてコーディングしなくてはならなかった」とWPFをアピールした。

 自身も旭山動物園に強く魅力を感じているというヒューストン社長は、「動物園と新技術は、相反するものではないかという疑問もあるかもしれない。実はこの2つには、類似性がある」と強調。動物園は、動物と直接触れ合うことのできる場所。一方、ITの新技術は、遠隔地からの情報へのアクセスを可能にするものだ。一見両者は異なるように見えるが、新技術も、人々と動物との距離を縮め、動物といかに共生していくべきかを伝える役割を果たせるという。

 もう一つヒューストン社長が強調したのは、地方にICTを育てることの重要性。今回のマイクロソフトからの技術協力はすべて無償で行われたが、これは「単なる慈善事業ではない。長期的に見れば、マイクロソフトにメリットがあること」(ヒューストン社長)との考えに基づいている。今回のWebサイトはマイクロソフトおよび東京のシステム開発会社により開発されたが、現在AICTに技術移管中で、今後はAICTが保守やコンテンツ拡張を担当する。こうした活動を通じて旭川にICTの技術者や企業が育ち、マイクロソフト製品への需要が伸びることが期待されるというわけだ。またICTの力で旭川の経済振興を目指すAICTにとっても、このプロジェクトは魅力的に映った。「旭川は人口では北海道で2位なのに、ICTの売り上げは4位。何とか売り上げの順位を上げたい」(AICTの古川正志会長)という。

 なお旭山動物園は、職員らの手による独自のWebサイトを以前から公開している。Mother Earthはこれを置き換えるのではなく、あくまでも補完する存在として位置づけるという。

 Mother Earthの動作環境は、Windows VistaまたはWindows XP SP2(Windows XP SP2は、.NET Framework 3.0のインストールが必要)。さらに、一定の水準を満たしたCPUやメモリー、グラフィックスチップなどが必要。詳細はMother EarthのWebページで確認できる。