写真1●米Linden Lab創業者兼CEOのPhilip Rosedale氏
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 「Second LifeはWebになると信じている」--。仮想世界「Second Life」の運営元,米Linden Lab創業者兼CEOのPhilip Rosedale氏(写真1)は4月24日(米国時間),サンフランシスコで開催中の「Gartner Symposium/ITxpo 2007」の基調講演でこう語った。Second LifeがWebだとしたら,Linden Labは決済機能などに特化した「米eBayのような存在になる」のだという。

 Rosedale氏は,Second Lifeの魅力が,ユーザー自身が作成したコンテンツである点や,Second Lifeの中で行われるユーザー同士のコミュニケーションである点を根拠に,Second LifeがWebそのものになりつつあると語った。しかも「現在のSecond Lifeはまだ初期段階であり,1994~95年ぐらいのWebに状況が似ている」(Rosedale氏)と言う。

 そう言われると確かに,多くの人にとって何が面白いのか分らないままである一方で,多数の企業が大金を投じて(内容が微妙な)コンテンツを展開しつつある現在のSecond Lifeの現状は,消費者と企業の双方を巻き込みつつも,「インターネットは空っぽの洞窟」などと言われていた90年代中ごろのWebに似ている(写真2)。

写真2●基調講演でGartnerが披露した「Second Life内のGartnerセミナー・ルーム」
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自前のSecond Lifeサーバーが運用可能に

 Second Lifeのシステム自体も,インターネットのWebに近付きつつある。Second Lifeは既にクライアント・ソフトがオープンソースとして公開されているが,サーバーに関しても新しい動きがあるという。「数カ月中に,Second Lifeの中で大規模な活動などを行いたい企業やユーザーが,自身の手でSecond Lifeサーバーを運用できるようになる」(Rosedale氏)というのだ。これはインターネットにおいて,企業や個人が自前でWebサーバーを運用しているのと同じだ。

 「Second Lifeの中で本格的なシミュレーションを行ったり,多数のユーザーに情報を配信したりするならば,大きなサーバーが必要になる。こういう場合は,自社でサーバーを運用するのがいいだろう。また,セキュリティや著作権侵害などを気にする企業も,自前でサーバーを運用するようになるのではないだろうか。また,Second Lifeのサーバー・ホスティングなどを行うサード・パーティ・サービスも登場するかもしれない。将来的にSecond Lifeの規模がもっと大きくなったら,ピア・ツー・ピア・アーキテクチャになる可能性もあるだろう」(Rosedale氏)

eBayになるLinden Lab

 クライアントもサーバーもLinden Labの手を離れようとしているが,それでも運営元のLinden Labには大きな役割と収益源が残されている。それが,米ドルと交換可能なSecond Life内通貨「Lindenドル」の決済機能だ。Rosedale氏は,「Lindenドルは,Second Lifeの中での少額決済を行うために作った通貨だ。ブラジルのインターネット・カフェでSecond Lifeに参加して,アバター用のサングラスを作っているユーザーが,米国のユーザーにサングラスを売れるようにする。そういった小さな交易がしやすいようにLindenドルを作った。現在では500万ドルの通貨が流通しているが,興味深いことに取引の平均額は1ドルに過ぎない」と語る。Linden LabはWebにおけるユーザー同士の取引を決済する機能を提供するという意味で「Second Life内におけるeBayのような存在になる」(Rosedale氏)というわけだ。

世界のすべてをデジタイズしたかった

 今回の基調講演は,Gartnerのアナリストによる質問にRosedale氏が答えるという形式で行われた。Rosedale氏はほかにも,様々な興味深い発言をしている。

 Rosedale氏は,Second Lifeを始めた動機をこう語る。「Second Lifeのことは,1990年代前半からやりたいと考えていた。世界のすべてをデジタイズ(デジタル化)したかった。そこには当然,エコノミーも含まれている」(Rosedale氏)。Second Lifeに関しては,そこで取引される金額の多さが話題になっているが,Rosedale氏の意図どおりだと言えるだろう。

 また「Second Lifeを始めて,一番の驚きは何か」という質問に対しては,「Second Life内で,企業などが発表会といったイベントを始めたこと」と答えた。というのもRosedale氏は,「コラボレーションのような行動は,他にもデジタイズの方法がある」と考えていたからだ。つまり発表会などのイベントなどは,音声チャットを使ったり動画ストリーミングを使ったりすれば簡単にデジタル化できる。それにもかかわらず,わざわざ仮想世界内でアバターを使ってイベントをやっていることが,Rosedale氏にとっても驚きだったというのだ。

 Second LifeはRosedale氏の想像を超えて,何でも行われる場所になった。だからRosedale氏は「Second LifeはWebそのもの」と語る。「オハイオ州立大学のように,Second Lifeの中にキャンパスを作りだす組織も現れ,Second Lifeの世界のサイズはどんどん大きくなっている。今のSecond Lifeは,ユーザーが作る新しいコンテンツが,新しいユーザーを運んできている。われわれは,Second LifeがWebになると信じており,Second Lifeはいつかインターネット・スケールになる。その時には,オープン・システム,オープン・スタンダードに基づいて,Second Lifeが運用されるだろう」(Rosedale氏)。

オープンソース化の効果が出てきた

 Second Lifeはオープン化も推進しており,既にクライアント・ソフトウエアをオープンソースとして公開している。その効果が,現実に現れ始めてきた。「Second Lifeで経済活動を行っている企業の中で,クライアント・ソフトウエアに,オリエンテーション機能をつけるところが現れた」(Rosedale氏)のだ。

 Second Lifeのクライアント・ソフトウエアは,Rosedale氏も「操作は難しい」と感じている代物だ。Second Lifeで経済活動を行う企業としては,Second Lifeに新規ユーザーを呼び込むために,クライアント・ソフトウエアの使い勝手を上げて,参加するための敷居を低くしたい。そう思った企業が,クライアント・ソフトウエアにオリエンテーション機能を追加したのだという。Rosedale氏は「仮想世界は,Webがそうであるように,簡単であるべきだ」と,この動きを歓迎している。

Second Life成功の要因は?

 Rosedale氏は,Second Lifeが成功した要因について「強い私有財産権があることと,ビジュアルを自由にコントロールできることだ。実はこれらは,現実の世界と同じ特徴だ」と語る。Second Lifeには既に,1億個を超えるユーザー作成コンテンツがあり,世界の面積はサンフランシスコの広さを超えたという。「Second Lifeには,数十万人のユーザーがいる。これは大きな群衆(ビッグ・クラウド)であり,企業が広告をしたくなる気持ちも分かる」とRosedale氏は語る。Second Lifeで経済活動を行いたい企業に対して,Rosedale氏はアドバイスを行った。

 「ブランドや新製品の宣伝のためにSecond Lifeで広告を展開している企業は多いが,広告は面白くないと注目されない。それよりも,賢明な会社は,Second Lifeをユーザーとの対話や,ユーザーとのエンゲージメント(関係性強化),製品のプロトタイプのユーザーによる評価などに使いだしている」(Rosedale氏)という。

 例えばリゾート運営会社が,これから建てようと思っているホテルの設計書を基にSecond Life内にホテルを建設して,そのロビーでパーティーを開いたりしてユーザーを集めたりするのが良いのではないかとRosedale氏は指摘する。「バーチャル・ホテルに誰でも入れるようにして,デザインのフィードバックを受ければいい。本当のホテルを建てるためには何百万ドルも必要であり,しかも建ててからユーザーのフィードバックを受けることは不可能。プラスチックのプロトタイプを見せてユーザーの評価を聞くよりは,仮想世界で作った方がいいはずだ。企業が今,Second Lifeの中で行っているビジネス・ミーティングも,こういった仕掛けがあれば,もっとパワフルになるだろう」(Rosedale氏)。

「音声」で企業活動がパワフルに

 Rosedale氏はSecond Lifeの次の展開も明かした。それは「音声機能」で,数カ月以内に追加する予定であるという。Rosedale氏は「音声技術があれば,消費者とのエンゲージメントや対話がより密接になる。また,オハイオ州立大学が行っているような仮想世界内での学習も,より効果が上がるだろう。記者会見をSecond Lifeでやって,音声機能を使ってインタビューをするのもいいだろう」と語る。

 なお,基調講演の後にRosedale氏がITproに対して語ったところによれば,「Second Lifeの音声機能の品質は,FMラジオ相当になる。これは,Xbox/Xbox 360のボイス・チャット機能を上回る」という。音声機能はSecond Lifeの中だけに閉じていて,他のVoIPアプリケーションなどと連携する予定はない。

仮想世界の方が透明性は高い

 最後に,Second Lifeに負の側面はないだろうか。経済活動があまりに大きくなっているので,脱税などの温床になるのではないかというアナリストの質問に対しては「仮想世界は現実の社会よりも透明性が高い」(Rosedale氏)と反論した。つまり,Second Lifeで生きていくためには,アカウント(ユーザー名)や,決済に使うクレジット・カード情報などが必要であり,ユーザーの識別が可能だ。そのため「著作権侵害の問題や,その他の違法行為も,仮想世界では起きにくい」(Rosedale氏)と語る。

 ただしSecond LifeがWeb化していく上で,悩ましい問題もある。それはSecond Life内のユーザー名が,インターネット上のドメイン名と同様の問題をはらんでいるということだ。インターネットでは,後に高額で売りつけることを目的に,会社名やブランド名などと同じドメイン名を第三者が先に取得するといった問題も発生している。Rosedale氏は,「McDonaldはありふれた人名だが,会社の名前でもある。Second Lifeでいったい誰が使うのか。インターネットのドメイン名で起きた問題と同じだ」と指摘した。