米GartnerのVice PresidentであるThomas Bittman氏
米GartnerのVice PresidentであるThomas Bittman氏
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 「2010年までに,仮想化技術がITインフラストラクチャの計画や購買,構築,展開,運用,変更といった全てを変えるだろう」---。米GartnerのVice PresidentであるThomas Bittman氏(写真)は4月24日(米国時間),サンフランシスコで開催中の「Gartner Symposium/ITxpo 2007」でITインフラの将来像をこう予測した。

 Bittman氏の予測には「2010年までに着実な成長が見込めるサーバーOSはLinuxとWindowsだけ」「Windows Server Longhorn(開発コード名)は米Microsoftにとって最後の『大規模なモノリシックOS』になる」といった大胆なものも含まれる。さらに同氏は「5年後の2012年には,ITインフラの運用の自動化がついに実現する」と語る。

 この自動化を実現するのが仮想化技術だ。「仮想化技術は,アプリケーションの仮想化,OSの仮想化,ハードウエアの仮想化といった具合に,ITインフラの各レイヤーで,様々な技術が使われるようになる」(Bittman氏)。

 これからの数年でITインフラはどのような変貌を遂げるのだろうか。以下でBittman氏の予測を詳しく紹介しよう。

サーバーOSとはハイパーバイザーのこと

 Gartnerの予測では,MicrosoftはLonghorn Server用の「Windows Hypervisor」を2008年上半期に提供する見込み。これに伴い,x86サーバー用のハイパーバイザー技術(オープンソースのXenやWindows Hypervisor)は,2008年末までに基本的に無料になる。そして2009年には,x86サーバー上で400万台の仮想マシンが動作するようになるとGartnerは予測する。これは,x86サーバーの市場規模の20%に相当する台数だという。

 サーバー分野における仮想化の浸透は,サーバーOSの概念を変えていく。すなわち,「ハイパーバイザーがピュアなOSになり,OSの各機能のモジュール化が進む」(Bittman氏)。その上で「Windows Server LonghornがMicrosoftにとって最後の『大規模なモノリシックOS』になる」と予測した。

 また,特定の機能を実装したアプライアンスについては,現在のアプライアンス・サーバーのようにハードウエアを単位にしたものは姿を消し,仮想マシンとOS,アプリケーションを組み合わせた仮想ディスクのようなものが基本的な姿になるという。このほかBittman氏は,「2010年までに着実な成長が見込めるサーバーOSはLinuxとWindowsだけ」とも指摘している。

業務アプリケーションは「OSニュートラル」に

 仮想化技術は,サーバーだけではなくクライアントでも活用されるようになる。米Intelの「vPro」構想のように,仮想化技術を使って,クライアント・マシンを「アプリケーションを実行するパーティション」と「ハードウエアをモニタリングするパーティション」に分割し,クライアント管理を簡略化する動きが本格化する。「Microsoftは2009年までに,Windows Vistaにハイパーバイザー技術を追加するだろう。2012年までには新しいスマート・フォンの50%に,仮想化技術が搭載されているはずだ」(Bittman氏)。

 アプリケーションの仮想化も浸透する。ターミナル・サービス(仮想デスクトップ)に代表される「リモート・ホスティング」や,アプリケーションやOSをパソコンにインストールせず,起動するたびにネットワーク経由で呼び出す「ソフトウエア・ストリーミング」などだ。

 その結果,「60%の大企業が,2009年までに最低でも5種類のアプリケーション配布技術を使うようになるだろう。特にソフトウエア・ストリーミングは,展開(デプロイ)の概念を一変させる」とBittman氏は話す。

 「まずアプリケーションのストリーミングが先に行われ,その次にOSのストリーミングがやって来る。ソフトウエア・ストリーミングや,リッチなユーザー・インタフェースを備えたWebアプリケーション(RIA)が普及し,2010年には,新規に開発される業務アプリケーションの60%がRIAになるはずだ。こうして2011年には,ほとんどの企業アプリケーションが,実行環境に左右されない『OSニュートラル』な存在になるだろう」(Bittman氏)。

仮想化の浸透が生むマルチソーシング

 仮想化によってITインフラの切り分けが容易になると,複数のアウトソーシング事業者を動的に利用する「ダイナミック・マルチソーシング」や,複数の企業によるITインフラの共有を実現しやすくなる,とBittman氏は指摘する。企業は「使った分だけコンピューティング費用を支払う」ようになるため,ITインフラのコストがより可視化されるようにもなる。

 ただ,不安材料もある。データセンターの電力問題,より正確に言うと「電力と冷却問題」だ。サーバーの消費電力が増加することによって,データセンターを冷却するのに必要な電力量も急増しており,サーバー1台当たりの電力消費量は8000ワットにも及んでいる(サーバーだけでなく冷却設備なども含む)。Bittman氏は「2008年には,既存のデータセンターのおよそ半数で,電力と冷却能力の容量が不足するだろう」と指摘している。