写真1●GartnerのDistinguished Analyst兼Chief of ResearchであるStephen Prentice氏
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 スーツを着た米Gartnerのアナリストが,ゲームや仮想世界の動向について語る--。仮想世界がそれだけ重要になったからか,単なるバブルなのかは判断に苦しむところだが,Gartnerが仮想世界に関心を持っていることだけは間違いない。実際,現在開催中の「Gartner Symposium/ITxpo 2007」における基調講演のスピーカーは,「Second Life」の運営元,米Linden Lab創業者兼CEOのPhilip Rosedale氏である。

 Linden LabのRosedale氏による基調講演の前日に当たる4月23日(米国時間),GartnerのDistinguished Analyst兼Chief of ResearchであるStephen Prentice氏(写真1)が,「仮想世界におけるビジネスの可能性」という講演を行った。Prentice氏は「仮想世界は何も,ゲームだけとは限らない。実はインターネット・ユーザーの80%が,ゲームの『Second Life』に限らない『二つ目の世界(second life)』に参加している」と,仮想世界の大きさを指摘し,企業が注意を怠るべきではないと主張した。

 Prentice氏は講演で,「Gartnerによる仮想世界5つの原則」を披露した。その第一が「仮想世界はゲームに限らない」という原則である。確かにSecond Lifeが,非常に巨大な仮想世界であるのは間違いない。2007年1月現在でユーザー数は1080万人に及び,仮想通貨のリンデン・ドルは「60億リンデン・ドル」も流通している。なお,Second Lifeユーザーの平均年齢は33歳で,男性が60%を占めるという。

 それでも,「アバターを使った仮想世界」という観点で見れば,Second Lifeよりも大きな世界が存在する。「30歳以下の韓国人の90%が毎日利用している」(Prentice氏)という韓国の「Cyworld」のユーザー数は1800万人にも及ぶ。

 逆に,ゲームとして見た場合にも,Second Lifeが「飛びぬけて巨大」というわけではない。例えば3Gアクション・ゲームの「DOOM」は1000万人以上がダウンロードしたし,多人数型オンライン・ロール・プレイング・ゲームの「World of Warcraft」は,800万人以上の有料ユーザーを抱えていた。

Second Lifeは「複合型仮想世界」

 それでは,Second Lifeがこれだけ大騒ぎされる理由は何だろうか。Prentice氏は「Second Lifeの特徴は,3Dゲームの要素や多人数型オンライン・ゲーム(MMOG)の要素,環境シミュレータとしての要素,ゲーム内建造物などを作れるUser Created Contentとしての要素,ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)としての要素,これらの要素がミックスされていること。Second Lifeは一種のプラットフォームとなっており,仮想世界の進化の形を示した」と主張する(写真2)。

写真2●さまざまな仮想世界の要素が複合されたのがSecond Life
写真2●さまざまな仮想世界の要素が複合されたのがSecond Life

 またPrentice氏は,「Second Lifeは『没入感(Immersion)』の重要さを多くの人に知らしめた」と指摘する。「Second Lifeの普及によって,テレプレゼンス(よりリアルなテレビ会議システム)などの商機が広がった」(Prentice氏)という。

仮想世界はコミュニケーションのインタフェースに

 Prentice氏が語る仮想世界第二の原則は「アバターの後ろには,本物の人がいる」ということ。仮想世界で流行する文化や人々の態度は,必ず現実社会と何らかの形でリンクしているとPrentice氏は指摘する。また,ポルノグラフィなどの性的コンテンツのような『現実社会で欠かすことのできないコンテンツ』が,仮想世界でも求められる傾向があるという。

 Prentice氏はまた「2012年までに,仮想世界の主流は(ゲームのような)商業活動から,コミュニティ活動に移行するだろう」と語る。ソーシャル・ネットワークを利用するインタフェースが,単なるWebブラウザから,仮想世界を利用するための3Dタイプのソフトウエア環境に移行する可能性があるというのだ。

企業はかかわりを持たざるを得ない

 仮想世界第三の原則は「かかわりを持とう,価値を加えよう」というもの。Prentice氏は「仮想世界に1兆ドルのビジネス機会がある,という意見には賛同しかねる。それでも,仮想世界が商業活動の場になっているのは間違いない」と語る。この傾向に拍車をかけたのは,ご存じのとおりSecond Lifeで,Prentice氏は「リンデン・ドルとUSドルの為替レートまですでに存在している」と指摘する。

 仮想世界第四の原則は「影の部分も必ずある」ということ。「仮想世界におけるセキュリティや信頼性,プライバシーの問題は,これから顕在化するだろう」(Prentice氏)。またいくら仮想世界に参加する必要があるからと言って,従業員に就業中にゲームをさせなくてはいけないのか--といった問題も残っている。

 仮想世界第五の原則は「仮想世界化の流れは,非常に長期にわたる傾向である」ということ。「仮想世界は,非常に多様な側面を持っている。単一の世界(Universe)というよりは,複数存在する世界(Metaverse)という言葉がふさわしい」(Prentice氏)。もし,仮想世界に関するある流行が廃れたとしても,仮想世界が重要になるという傾向はそう簡単には消えないだろう,と指摘した。