写真1●GartnerのVice President兼Distinguished AnalystであるGene Phifer氏
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 ここ数年,IT分野の新技術はまず消費者分野(コンシューマ)で採用され,その後企業分野(エンタープライズ)に波及している--。米Gartnerはこのような動きを「コンシューマライゼーション」と呼ぶ。この流れに沿うならば,企業が取り組むべきは「Web 2.0」を企業情報システムに取り込むことであろう。その際には「技術,ビジネス, コミュニティという3つの視点で,Web 2.0を把握するのが肝要」とGartnerは言う。

 同社のVice President兼Distinguished AnalystであるGene Phifer氏(写真1)は,米国サンフランシスコで開催中の「Gartner Symposium/ITxpo 2007」で,このようなコンシューマライゼーションの最新動向に関する講演を行った。

 Phifer氏はまず,コンシューマライゼーションは決して珍しいことではないと前置きする。「好例がインスタント・メッセージング(IM)だ。IMは米AOLや米Yahoo!,米Microsoftのツールをまずコンシューマが使いだして,それから企業に受け入れられた。携帯電話についても同じことが言える。BlackBerryなどをまず使いだしたのも,コンシューマだった」(Phifer氏)。

 そして現在,コンシューマ分野のトレンドを生み出している最大の分野が「Web」である。Phifer氏は「ブログやWiki,SNSといった『Web 2.0』のエッセンスをどう企業情報システムに取り込んでいけるかを考えるべき」と指摘する。その理由をPhifer氏は,こう語る。「われわれの世界は現在,子供のころからデジタル技術に囲まれて育った『デジタル・ネイティブ』と,大人になってからデジタル技術を受容した『デジタル・イミグラント(移民)』という2つの階級に分断されている。そして今まさに,労働市場にデジタル・ネイティブがやってこようとしている。われわれデジタル・イミグラントがデジタル・ネイティブを迎え入れるために必要なのが,コンシューマライゼーションという視点なのだ」(Phifer氏)。

技術,ビジネス,コミュニティでWeb 2.0を整理

写真2●GartnerのVice President兼FellowであるDavid Mitchell Smith氏
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 それでは企業はどのようにしてWeb 2.0を取り組んでいけばよいのだろうか。この問題に関しては,同社のVice President兼FellowであるDavid Mitchell Smith氏(写真2)が解説した。Smith氏はまず,「あまり恐れる必要はない」とアドバイスする。「『イントラネット』のことを思い出してほしい。これは『インターネットを企業内で使う』というアイデアであり,コンシューマライゼーションの1つだった」(Smith氏)。

 Smith氏は続いて,企業がWeb 2.0を取り込む上で考慮すべき「技術視点」「ビジネス視点」「コミュニティ視点」という3つの視点を披露した。Smith氏は「CIO(Chief Information Officer)やITリーダーといったIT分野の人間は,どうしても技術に視点が行きがち」と指摘した上で,Web 2.0に関する理解が深まった現状では,むしろ重要なのは「コミュニティ視点」と「ビジネス視点」であるという。「Web 2.0が,ビジネスやコミュニケーションの在り方も変えたことに留意してほしい」(Smith氏)。「企業システムにおけるWeb 2.0の受容」は,単なるアプリケーションの導入ではないことを強調した。

WebとSOAの組み合わせで「WOA」

 Web 2.0の技術面の特徴については,Smith氏は企業情報システムにとって馴染みの深い「SOA(サービス志向アーキテクチャ)」を引き合いに出しながら「WebとSOAを組み合わせた『WOA』が,Web 2.0の技術面での原則といえる」と述べた。「REST(REpresentational State Transfer)やRSS,WS-*,Microformatsなどは皆,SOAにのっとっている」(Smith氏)からだ。

 またSmith氏は,Ajaxについても言及した。確かに,Ajaxの普及がWeb 2.0をリードしたという側面はある。しかしSmith氏は「Gmailや最近のYahoo! Mailに見られるAjaxを活用したWebメールのパイオニアは,1998年に登場した『Outlook Web Access』だ。だから何が何でもAjaxを取り入れなければならないというわけではない」と指摘する。

企業がWikipediaに学ぶべきポイント

 さらに,企業がWeb 2.0を取り込む上でのポイントとしてSmith氏は,フリーのオンライン百科事典「Wikipedia」を例に挙げた。「企業はWikipediaから学べる点がある」とSmith氏は語る。Wikipediaがベース技術として使用しているWikiの特徴は,1つの文書を複数人で編集できること。そのため,企業内での文書管理に向いたシステムだと言える。しかしSmith氏は,企業に導入する際は注意が必要だという。「企業は『ヘビー・コントロール(厳しいコントロール)』で運用するか『ライト・コントロール』で運用するかを決めなくてはならない。Wikipediaが成功した要因は,登録者であれば誰でも編集ができるライト・コントロールにあったと言われている」(Smith氏)。

 コミュニティ視点でWeb 2.0を見た場合の最大の特徴である「集合知(Collective Intelligence)」は,企業内でもぜひとも活用したい。しかし,集合知を引き出すためには,それ相応の「Web 2.0的な作法」があるとSmith氏は指摘しているのだ。

 一方,ビジネス視点で見たWeb 2.0の特徴は,「様々な組織や人々の能力を連合させること,すなわちマッシュアップだ」(Smith氏)。「米eBayや米Amazonで行われている出品者や商品に関するレイティングは,まぎれもない集合知であり,人々の評価能力をマッシュアップした形だといえる」とSmith氏は語る。またPhifer氏は,「製品やサービスに関連するコミュニティがあれば,ユーザーの質問がコミュニティで解消されることを通じて,サポート費用の削減などに還元できる」と,企業にとって取り組みやすい例を示した。

 3つの視点を指摘した上でSmith氏は「企業にとってのWeb 2.0を考えた場合,技術的な要素の受容が容易なのは間違いない。しかし,ビジネスにとってインパクトが大きいのは,非技術的な要素であることの方が多い」とまとめた(写真3)。

写真3●ビジネスにとってインパクトが大きいのは「Web 2.0の非技術的な側面」
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