写真1●4月22日に開幕した「Gartner Symposium/ITxpo 2007」
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 「2012年,CIO(Chief Information Officer)にとって『テクノロジのマネジメント』は重大事ではなくなる。新しい顧客,新しい市場を探すことこそが,CIOに求められる仕事になる」--。米GartnerのVice President兼Research FellowであるKen McGee氏は,4月22日(米国時間)にサンフランシスコで開幕した「Gartner Symposium/ITxpo 2007」(写真1)で,将来の企業情報システムの姿についてこう指摘した。

 McGee氏によるセッションは,Gartnerが行ったCIOに対する意識調査などを基に,企業情報システムの将来像を予測するもの。まず冒頭で,2007年の世界経済の成長率が,前年より低くなると見込まれていることから,2007年第3四半期からIT予算のカットが始まるであろうことを指摘した。またCIO調査では,多くのCIOが「2010年までは自社の売り上げの成長が続く」と考えている一方で,IT予算の伸びは売上高の伸び率よりも抑えられていることが明らかになっている。

 全世界におけるIT製品・サービス市場規模の伸び率も,今後さらに低下する見込みだ(写真2)。2007年におけるIT製品・サービス市場規模は3兆ドルと見込まれるが,市場規模の伸び率は対前年比5.4%で,2006年における同5.5%を下回り,2008年には同4.8%とさらに鈍化する見込みだ。しかもMcGee氏は,「消費者市場における最新IT技術の受容,すなわち『コンシューマライゼーション』は,今後も成長が続くだろう。これからのIT製品・サービス市場を伸ばしていくのは,コンシューマ分野になる」と述べ,企業情報システムにおけるIT予算の伸びは,市場全体を下回る傾向にあることを指摘した。

写真2●IT製品・サービス市場の対前年度比
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 このような環境の中で,企業情報システムそのものはどう変わっていくのだろうか。McGee氏はまず,カジュアルな予測をしてみせた(写真3)。

写真3●GartnerによるIT市場動向予測
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 「ブロギング(ブログを書くこと)や『コミュニティへの貢献』の動きは,2007年上半期にピークを向かえるだろう。これはすなわち,そういうサービスを手掛けようという企業にとって,参入機会がより狭くなることを意味する」(McGee氏)。

 また2010年までには,パソコンのTCO(Total Cost of Ownership)は50%低くなるが,その一方で「企業は無駄な通信のために,1000億ドルを失うことになるだろう」(McGee氏)と指摘する。McGee氏によれば「これは企業の従業員が,インターネット上の動画など本来の業務に必要ないデータをダウンロードすることによって発生する損失の合計」なのだという。

「セキュリティ」から「ビジネスの拡大」へと興味が遷移

 続いてMcGee氏は,2012年に向けてCIOがどのようなことに関心を持っているのか,同社によるCIO意識調査の結果を示した(写真4)。

 これによれば,2004年におけるCIOの最大の関心事は「セキュリティ対策」であり「データ保護」であり,「内部統制対応」であったが,2006年以降はより「ビジネスを拡大させる」ことに関心が向いていることが明らかになった。

 「この3年間でCIOの意識は大きく変わった。成長にとって最も重要なファクターは,テクノロジ・マネジメントから,企業の能力や競争力をITの力によって変えていくことにシフトしている。IT部門は,業務プロセスを変える能力,コスト構造を管理する能力,新しい顧客,新しい市場を探し出してつかみ取る能力が問われるようになる」(McGee氏)。

写真4●CIOの関心事の移り変わり(GartnerのCIO調査より)
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 このほかMcGee氏は,2012年に向けて重要になるいくつかのキーワードを紹介した。

 その1つが「マルチアウトソーシング」だ。「現在は,米IBMや米Hewlett-Packardのような大企業に,自社の業務をまとめてアウトソースする傾向が強いが,これからは世界に散在する様々なアウトソーサーに,業務をアウトソースしていくことになるだろう。このようなマルチソーシングを成功に導くためには,どれだけアウトソーサーとの密接な信頼関係を構築できるかが重要になる。またIT部門がどれだけ自社のビジネス・プロセスを把握しているかが,アウトソーシングを成功させる要になるだろう。エンタープライズ・アーキテクトは,優秀なサプライヤーを見つけられるかどうかが問われるようになる」(McGee氏)。

 もう1つのキーワードとしてMcGee氏は,「ITリーダーは,アプリケーション・マネージャになる」という点を挙げた。「独SAPや米Oracle,米Microsoftなど,どこか1社だけのソフトウエアを採用して業務システムを構築する『シングルソフトウエア・アプローチ』が通用しないことは明らか。これからのITリーダーは,どのアプリケーションを組み合わせれば,自社の複雑な業務プロセスに適合させられるかを管理する『アプリケーション・マネージャ』としての能力が求められる」(McGee氏)。

コンシューマライゼーションから目を離すな

 最後にMcGee氏は,今後も「コンシューマライゼーション」に関して注意を怠るべきではないと指摘した。「Web 2.0は,コンシューマから起こったムーブメントだった。しかし今では多くの企業が,『Second Life』でどのアバターを展開していくかなど,仮想世界での身の振り方を考えている。あなたの会社や産業において,どのような対応が必要かは常に考えておくべきだ」(McGee氏)。

 またMcGee氏は,短期的にWeb 2.0などが世間で話題にならなくなったとしても,注意を怠るべきではないと強調する。「テクノロジには,『ハイプ・サイクル(Hype Cycle)』という『話題になりやすさ』に関するサイクルが存在する。つまり,テクノロジが登場したばかりの時期は,そのテクノロジは過剰に話題にされ,テクノロジが浸透し始めるにつれ,極端に話題にされなくなる。例えば現在は『Tablet PC』や『RFID』が『底』に位置しており,ほとんど話題にされなくなった。しかし,テクノロジが企業にとって本当に必要になったとき,また話題になるようになる。例えば『VoIP』や『Smartphone』がそうで,これらは一時期話題にならなかったが,再び話題になるようになった」(McGee氏)というのがその根拠だ。

 McGee氏によれば,Web 2.0やマッシュアップは今が話題のピークにあり,Ajaxはかなり話題にならなくなり始めているという。しかしテクノロジそのものの重要性が減ったわけではないので,今後も軽視しない方がよいと聴衆に呼びかけた。