写真●ソーシャル・ニュース・サイト「Digg」の共同創立者のOwen Byrne氏
写真●ソーシャル・ニュース・サイト「Digg」の共同創立者のOwen Byrne氏
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 「Diggの立ち上げにかかった費用は2000ドル。サーバーのホスティング料金は月額99ドルに過ぎなかった」──。米国の人気ソーシャル・ニュース・サイト「Digg」の上級ソフトウエア・エンジニアで共同創立者でもあるOwen Byrne氏(写真)が,米国サンフランシスコで開催中の「Web 2.0 Expo」で,Diggの歴史や裏側を語った。

 2004年に開設された「Digg」は,米Yahoo!に買収された「del.icio.us」と人気を二分するソーシャル・ニュース・サイト。Diggでは,ユーザーがより多くブックマークした記事が,ページの上位に掲載される仕組みを持つ。登録ユーザー数は100万人以上で,毎日1000万以上のページ・ビューを稼ぎ,1カ月当たりのユニーク・ビジター数は1500万ユーザー。ユーザー数,ページ・ビュー数とも,いまだに毎月10%ずつ伸び続けているという。Byrne氏は「Diggで取り上げられたWebページのビューが急増する『Digg効果』も見られる」と語る。

 Web 2.0サイトの代表格として取り上げられることの多いDiggだが,Byrne氏によると,2004年に開設した際の規模は非常にささやかなものだったという。「立ち上げにかかった費用は2000ドル。プロジェクトの仕様を決める作業は,オークション形式で仕事をやってくれる人を探せる『Elance』で募集してやってもらった」(Byrne氏)。さらに,サーバーの台数は1台で,ホスティング料金は月額99ドル。サーバー・アプリケーションにはすべてオープン・ソース・テクノロジー,すなわちLAMP(Linux,Apache,MySQL,PHP)を採用したという。

有名人のスキャンダルが契機

 2004年12月の創立から,最初に外部から出資を受けた2005年5月までは,「主にサーバー設定の最適化でアクセス増をしのいだ」(Byrne氏)。しかし2005年2月に,Diggのアクセス数を大幅に増やす転機が訪れる。「ある朝,サーバーにログインしたら妙に反応が遅くなっていることに気付いた。(ファッション・モデルの)パリス・ヒルトンの携帯電話がハックされて,プライベートな写真が流出していた。その話題を取り上げたDiggのページがYahoo!の検索インデックスに載った結果,アクセス数が1日で2倍になったのだ」(Byrne氏)。

 実は,日本の「Web 2.0系企業」の中にも,Yahoo! Japan(の特にニュース記事の下に表示される「関連リンク」欄)に取り上げられることを「Yahoo!アタック」と呼んで恐れているところがある。それと同じ事態が,米国のDiggにも発生していたというわけだ。

 その後もDiggは「基本的には安定的に,時に突発的にアクセス数が増えた」(Byrne氏)。Diggはほとんど自身の広告活動を行っていないため,基本的には口コミでアクセス数が増えていったという。

スケーリングが最大の問題に

 アクセス数が増えるにつれて問題になったのは「ログ・ファイルが急速に巨大化し,1日2Gバイトを平気で超えるようになったことやMySQLを使った全文検索機能がスケール・アップに適さなかったこと,JavaScriptの扱いが難しかったことだ」(Byrne氏)。Diggでは,ニュースを「Diggする(ブックマークする/投票する)」際のビジュアル・エフェクトなどに,Ajaxを使用している。しかし「JavaScriptは複雑で,他人の書いたコードはよく分らない。また誰が作ったのか分らないコードが紛れ込み,ライセンス問題が発生する恐れもあった」(Byrne氏)という。

 ただし2005年5月に外部からの出資を受けてからは,サーバーの台数を増やしたり,プロフェッショナルを雇用したりできるようになり,問題は徐々に改善していったという。「オペレーション部門を作れたことが大きい。データベース管理者を含めて,現在は4人のスタッフが同部門に在籍している」(Byrne氏)。

 Byrne氏が,同社の成功の大部分を支えたと強調するのはオープン・ソース・ソフトウエアの存在だ。「LAMPのパフォーマンスを上げられるようメモリー・キャッシュを実現するために導入した『memcached』はスケーリングに大変役立ったし,ソースコードの管理には『Subversion』,内部文書の管理には『Wiki』を使っている」と語る。Diggは現在も「サーバーはすべてLinux」(Byrne氏)で,これは創立以来揺らいでいないという。

 最後にByrne氏は「サーバーのスケーリングは,常に意識すべきだ」と語った。「コストをかけることだけがスケーリングではない。負荷が半年で数倍になることもありうる。そういった事態に備えられるように,準備をすべきだ」(Byrne氏)と締めくくった。