写真1●米Amazon CEOのJeff Bezos氏 [画像のクリックで拡大表示] |
写真2●Tim O'Reilly氏 [画像のクリックで拡大表示] |
Web 2.0 Expoの基調講演ではまず,プレゼンテーターとして「Web 2.0」の提唱者であるTim O'Reilly氏が登場(写真2)。O'Reilly氏は,自身が2004年に「Web 2.0」という言葉を提唱したときのことを振り返り「私がWeb 2.0と言った背景には,2000年のWebバブルが弾けたことで『Webは終わった』とする考え方に反発していたからだ。これからもテクノロジの進歩が必要だと考え,新しく起こっていることをWeb 2.0と名付けた」と述べた。その上でO'Reilly氏は「現在のWeb 2.0はバブルだろうか?」と問いかけた。
O'Reilly氏の答えはもちろん「否」だ。O'Reilly氏はパソコン産業の歴史を引き合いに出してこう語る。「パソコン産業は『VisiCalc』というキラー・アプリケーションの存在によって,急速に発展した。それに対してWeb 2.0は,単一のアプリケーションとどまらない,もっと大きなアイデアが成長を支えている。Web 2.0の特徴は,グローバル・コンピューティング・ネットワークの存在と集合知だ。人々がみな,様々なデバイスを使って接続している。われわれを取り巻くコンピューティングそのものが変わろうとしているし,ホーム・エンターテインメントさえ変わろうとしている。Web 2.0の動きは,まだ始まったばかりだ」。
その上でO'Reilly氏は,「Jeff(Bezos氏)は,Amazon.comというキラー・アプリケーションを作った人物だが,アプリケーションだけでなく,Webプラットフォームを深く理解している」と述べて,次に登壇するJeff Bezos氏を紹介した。
アイデアを「成功」に導く手段を提供する
写真3●ストレージ・サービスの「S3」と仮想サーバー・サービスの「EC2」は連携が可能 [画像のクリックで拡大表示] |
写真4●BlueOriginはアクセス急増をAmazonのWebサービスの活用でしのいだ [画像のクリックで拡大表示] |
2006年春に開始した「S3」は,利用件数が大幅に増えているという。「2006年7月の段階で,S3が保存したオブジェクトの数は8億件だったが,2007年4月には50億件になった」(Bezos氏)。またBezos氏は「S3が処理しているリクエスト数は,これまでに最も多い場合で1日当たり9億2000万件。1秒当たり1万6607件を処理したこともある。S3はWebスケール・コンピューティングに特化してデザインされている」と,S3のパフォーマンスを強調した。
また,ストレージ・サービスの「S3」と仮想サーバー・サービスの「EC2」の利点は,メッセージング・キュー・サービスの「SQS(Amazon Simple Queue Service)」を通じて,容易に連携できることにある(写真3)。「デジタル・ビデオ・カメラで撮影したデータをAVIファイルとしてS3上に保存し,それをEC2のコンピューティング・パワーによってMPEG-4ファイルに変換するといったことが可能だ」(Bezos氏)。
Bezos氏は,S3とEC2を活用した事例として,米国でロケットを開発するベンチャー企業「BlueOrigin」を紹介した。BlueOriginは2007年1月に同社のWebサイトで,ロケットの打ち上げ試験の模様を動画付きで公開した。それが米国の人気サイト「Slashdot」や「Boing Boing」に取り上げられてしまったため,同社のアクセスはほんの数日で「ゼロに近い数字から,リクエスト件数で1日当たり350万件,データ転送量で1日当たり758Gバイトに急増した」(Bezos氏,写真4)。しかしBlueOriginは,Webサイトの運用にS3とEC2を利用していたため,アクセスが急増してもサービスが継続できた。またそれだけでなく,「同社が1月に払ったAmazon Webサービスの利用料金は304ドル23セントだけだった」(Bezos氏)という。
Webサービスの提供は「未来に対する投資」
写真5●Bezos氏(左)とO'Reilly氏(右) [画像のクリックで拡大表示] |
Bezos氏の基調講演の後には,O'Reilly氏との質疑応答があった(写真5)。O'Reilly氏による「Webサービスの提供は,お金になるの?」という質問に対してBezos氏は「これは,収入目的というよりは,未来に対する投資だ」と返答。「われわれにとっては,先進的であるというポジションを失うことが問題。情熱とお金を,次の10年のために投資し続けている。会社が変われないことが問題なのだ」(Bezos氏)と強調した。
続けてO'Reilly氏は「つまり,Amazonが本だけでなく,音楽やビデオ,電化製品を売り出したように,取り扱う製品の範囲をサービスにも広げたということか」と質問したが,それに対してもBezos氏は「そうではない」と返答。Bezos氏は「われわれは,新しいビジネスを始めようとしている。これまでの消費者に向いたビジネスだけでなく,企業相手のビジネスも始めようとしている。企業向けビジネスは,非常に大きな領域があるからだ。われわれは,オンラインだけにとどまらない企業向けのビジネスも始めている。その1つが,Amazonの物流インフラを提供する『Fulfillment Service』(商品の受注と発送をAmazonが代行して行うサービス)だ。このサービスでもWebサービスAPIを公開しており,発送した商品の追跡などもできる」と語った。