写真 総務省と欧州委員会によるフォーラムの様子
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 総務省と欧州委員会は4月3日,「日本とEUのICTの現状および政策の方向性について」と題したフォーラムを共同で開催した(写真)。日本とEUが,互いのICT(information and communication technology)市場や競争政策について理解を深めることが狙い。

 フォーラムではまず総務省の清水英雄総務審議官が,日本の通信市場の状況を説明。競争政策により,FTTHや第3世代携帯電話が世界に先駆けて普及している点などを紹介した。その後,欧州委員会のビビアン・レディング情報社会・メディア担当委員が,「ヨーロッパの情報社会:最新動向と今後の見通し」というタイトルで基調講演を行った。

 レディング委員が繰り返し強調したのは,従来から存在する地域通信事業者や支配的通信事業者へ適度な規制をかけ,独占を防止することが重要という点だった。レディング委員によると,例えば電気通信分野では,EUに加盟している27カ国それぞれに規制当局があり,その上で欧州委員会と連携し,通信市場の競争政策を進めているという。

 講演の中でレディング委員は,「EUと日本で共通する課題は,規制のバランスをうまくとれるかどうかだ」と述べ,「通信分野の競争を維持するためには規制は重要。しかし一方で,事前規制は必要不可欠な場合だけに限定しなければならない」とした。

 また,「従来から存在する地域通信事業者は,『規制を緩和すれば,(通信サービスの)設備投資を拡大することができる』と主張することが多いが,これは我々(のような規制当局)にとって,選択肢としてありえない」と指摘。市場の自由化を進め,既存の地域通信事業者による再独占を防ぐためには規制が必要,という立場を明確にした。「市場支配力を持つ通信事業者への規制をやめても,(通信設備などへの)投資が増える根拠はない。新規事業者との効果的な競争は,投資を抑制するのではなく,逆に促進するもの。実際に欧州においてインフラ投資が積極的な国は,競争が進んでいる国々だ」(同氏)。

 講演後の質疑応答では,「EUよりも日本の方が,電気通信分野のインフラ投資が進んでおり,規制環境も柔軟と言われている。EUは今後,設備投資の促進と規制緩和などをどのように進めるのか」という質問が聴衆から出た。これに対しレディング委員は,「今後,ボトルネック性がある設備には厳しく対応したい。一方で事後的な規制も強化していく」,と答えた。

 日本でも,ボトルネック設備を持つ地域通信事業者であるNTT東西地域会社には,光ファイバの開放義務などの規制がかけられている。2007年度中から,こうしたNTTへの規制状況を事後的にチェックする「競争セーフガード制度」の運用も新たに始まるため,通信市場における日本とEUの競争政策は似通ったものになるといえそうだ。