ヨドバシカメラマルチメディアAkiba。朝8時半には多くの人が列に並んだ
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イー・モバイルの会長兼CEO千本倖生氏(中央)やヨドバシカメラの藤沢昭和社長(右)などがテープカットを行った
イー・モバイルの会長兼CEO千本倖生氏(中央)やヨドバシカメラの藤沢昭和社長(右)などがテープカットを行った
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EM・ONEを最初に受け取ったのは30代男性の会社員。「仕事場が都内なので、圧倒的に便利になる」と声を弾ませた
EM・ONEを最初に受け取ったのは30代男性の会社員。「仕事場が都内なので、圧倒的に便利になる」と声を弾ませた
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 携帯電話事業に新たに参入したイー・モバイルは2007年3月31日、W-CDMAを拡張して、より高速なデータ通信を実現する「HSDPA」を利用した定額データ通信サービスを開始した。通信速度は最大3.6Mbpsで、月額基本料金5980円の完全定額制で提供する。

 同社は2007年3月1日からサービスの予約を受け付けていた。同社の千本倖生会長兼CEOによると、2007年3月30日までの契約数は1万7000。「(予約段階での)目標は1万と公言したが、本当は7000、8000くらいかと思っていた」(千本会長)予想をはるかに超える結果となった。予約の段階では、PDA型端末「EM・ONE」の予約が半分以上を占めた。「今後は(PCカード型やCFカード型などの)データ通信カードの比率も伸びていく」(千本会長)とした。現在のサービスエリアは、東京、名古屋、京都、大阪の各都心部。東京は現在23区を対応地域としているが、「(さらに広域の)国道16号線内を2007年5月末までにカバーする」(千本会長)予定だ。

 同日、都内秋葉原のヨドバシカメラマルチメディアAkibaで行われたイベントで、千本会長は「(EM・ONEは)世界で最も進んだスマートフォン。(料金が)高くて、(通信速度が)遅いために、世界で低きに甘んじていた携帯電話の世界を革命的に変える。これからの携帯電話は、通話機能は付属になり、“PC携帯”やスマートフォンが当たり前になる」と意気込む。同イベントでは、前日午後11時から徹夜で並んだという千葉県の会社員男性に千本会長から直接EM・ONEが手渡された。

「モバイルPCでも高速定額」で勝負


 イー・モバイルが開始したサービスは最大3.6Mbpsの高速データ通信サービス。月額基本料金5980円の完全定額制で提供する。「EM・ONE」端末単体でのデータ通信だけでなく、端末をノートパソコンなどに接続して使用した場合でも定額になるのが特徴だ。EM・ONE以外のPCカード型端末「D01NE」やCFカード型端末「D01NX」(2007年4月13日発売予定)なども定額での利用が可能だ。

 現在、パソコンで利用できる定額データ通信サービスとしてはウィルコムのPHSがある。ただし、通信速度は最大408Kbps(2007年4月5日から最大512Kbps)と、イー・モバイルには引けを取る。NTTドコモやKDDI、ソフトバンクモバイルは、パソコンで利用するデータ通信サービスに関しては定額制ではなく、従量課金制だ。このような「速度を取れば料金が跳ね上がり、料金を取れば速度が出ない」という状況を一変する可能性があるのが今回のイー・モバイルのサービスということになる。

成功には乗り越えるべき壁も


 ユーザーにとっていいことずくめに見えるサービスにも、業界からはまだ疑問の声も多い。まずはそのエリア拡大の可能性について。ウィルコムのサービス計画部長寺尾洋幸氏は「エリアはかなり苦労すると思う。我々がサービスを展開する上で一番苦労したのがエリアだからだ」という。最初は右肩上がりで伸びた契約数も、あるポイントで解約率が増加。理由は「自宅で使えない、学校で使えない、というエリアに関しての声が肥大化したため」(寺尾氏)だった。その後、毎年何百億という投資をして、ようやく今があるという。当然、イー・モバイルも順次エリアを拡大していく予定だが、同社がエリアを拡大している間にユーザーに見放される可能性もある。「そこまでの投資余力があるのかは未知数だ」という声さえある。

 速度に関してはどうか。ウィルコムの寺尾氏は「ユーザーが速いサービスを望むのは事実だと思うし、あなどれない存在だと認識している」と前置きした上で、「今ユーザーが望んでいるのは“使える”ことであって、カタログスペックでの勝負ではない」と断言する。継続的に一定の速度を出せることが重要なのだという。「速度だけではない、ということは公衆無線LANが(あまりユーザー数を伸ばしていないことで)証明している」(寺尾氏)。KDDIのau事業本部au事業企画部料金制度グループリーダー課長多田一国氏も「トラフィックがとんでもないことになるだけに、定額で本当に大丈夫なのか、品質がユーザーの満足いくものになるか、分からない」と疑問を呈する。理論値での速度が高くても、イー・モバイルが掲げる初年度30万会員が獲得できた際に、それだけの負荷に耐えられるネットワークを提供でき、ユーザーが納得できる速度が出るかは分からない。

 ただ、イー・モバイルが開始した高速の定額通信サービスは他事業者に徐々に変化をもたらすことにはなりそうだ。NTTドコモはデータカード型FOMAなどをパソコンに接続して使用する場合に、定額料金で64kbpsの通信が利用可能な料金プランを2007年秋頃より提供する予定。KDDIも「スマートフォンはまだ(KDDIから)出しておらず、うちは後発組。やるなら定額制とセットということもあり得る」(多田氏)。ウィルコムも基地局回線の光化を順次進め、高速化を図っている。

 「ダイアルアップからADSLに移る際も、そんなに速いサービスを誰が望むのかという声があったが、今やこの普及率」(イー・モバイル 常務執行役員経営戦略本部長兼情報システム本部長の小林英夫氏)というように、インターネット利用世帯におけるブロードバンド利用率は全体の7割を超えている(インターネット白書2006)。少なくとも、今回の定額データ通信サービスは、業界のサービスに一石を投じることは間違いない。イー・モバイルの成否をすべての携帯電話事業者が見守っている。