「文化審議会 著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」の第1回会合風景
「文化審議会 著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」の第1回会合風景
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 文化庁長官の諮問機関である、「文化審議会 著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」(保護利用小委)の第1回会合が、2007年3月30日に開催された。保護利用小委は、著作物の保護期間の延長などについて話し合う目的で、2007年3月に新設された小委員会である。初回から、早くも保護期間の扱いについて熱い議論が交わされた。

 著作権法には著作物の保護期間が定められており、著者の死後または作品の発表後一定の期間が経過すると著作権が消滅し、権利者以外も著作物を自由に利用できるようになる。現行の著作権法では、一般の著作物の保護期間を死後50年としているが、権利者団体などは欧米主要国と同じ70年に延長するよう要求している。現行法では、死後50年以上70年未満経過したコンテンツは、欧米主要国内では著作権管理団体などの許諾を得ないと利用できないが、日本国内では自由に販売できてしまう。こうしたケースに関して欧米主要国のコンテンツホルダーなどが是正を求めており、コンテンツ輸出入に関する障害となっている。2006年9月には、権利者団体などで組織する「著作権問題を考える創作者団体協議会」が、保護期間延長を求める声明を発表している。

 ただし、権利者側でも保護期間延長に慎重な意見がある。著作物は広く普及させたいという思いがあるのに、保護期間を延長することで権利者の所在が不明になるなどで許諾を得られず、過去の作品の利用が阻害されることも考えられるためだ。ユーザー側からは、保護期間の延長による権利者側への一方的な権利拡大に対する懸念の声が多い。

 こうした背景を踏まえ文化庁では、権利者団体や放送局、図書館などの関係者、作家、ジャーナリスト、大学教授などを委員に招き、保護利用小委を設置を決めた。今後、おおむね月1回のペースで会合を開き、関係者のヒヤリングを経て議論を進める。議題は保護期間の延長問題のほか、(1)権利者不明の著作物の利用を円滑化させる方策(2)図書館や博物館、放送局などのアーカイブ事業を円滑化させる方策(3)海外の著作物について、第2次世界大戦中の約10年間を保護期間に加算する「戦時加算」の見直し(4)クリエイティブコモンズや「自由利用マーク」など、コンテンツ利用に関する権利者の意思を明確化するシステムの利用について――などを予定する。なお、インターネット上ではオープンソースソフトウエア(OSS)やWikipediaのように、複数のユーザーが創作に携わり比較的自由な利用を認めるライセンス形態もあるが、こうしたインターネット関連の著作物については扱わない予定である。

 当初予定では、今回は審議の進め方などを決めるにとどめ、実質審議は第2回からとなっていた。しかし会合では、複数の委員が意見を表明。主張の異なる委員同士での反論も出て、保護期間延長問題を巡って関係者間で大きな意見の食い違いがあることが、改めて浮き彫りとなった。

 今回の討論では、「もともと保護期間は50年で世界共通だった。それを乱してきたのは欧米諸国の方だ。日本として日本国民のために主体的な議論が必要だ」(金正勲委員)、「アイデアは著作権による保護の対象外で、現行法でも自由に利用できる。保護期間延長は文化の発展を阻害しない」(三田誠広委員)、「欧米が保護期間を延長したのは、政治的な背景など一定の理由がある。例えば米国の保護期間延長時にどのような議論があり、延長の結果どうなったのかを分析すべき。『欧米に追随しないと恥ずかしい』では米国を利するだけ。日本は日本として、日本の経済的利益を考えるべき」(中山信弘委員)、「保護期間の延長問題を考える際に、第27条・第28条(に記載された翻案権など)を切り離すという考え方もある」(上野達弘委員)といった意見が出された。