日本マクドナルドの原田泳幸会長兼社長兼CEO(最高経営責任者)は22日午前、ホテルニューオータニ(東京都千代田区)で開催された「IT Trend 2007 イノベーションが創る『明日の経営』」で「人を育て人を動かす新たなイノベーションへの挑戦」と題する基調講演を行った。
 原田社長は2004年に日本マクドナルドに転じるまで、米アップルコンピュータ副社長を務めるなど33年に渡ってIT(情報技術)の世界に身を置いてきた。低迷が続いていた日本マクドナルドの立て直しに取り組んだ3年間を振り返った。



 
  日本マクドナルドの原田社長
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 30年以上、ITのソリューションを顧客に提供してきたが、今はITを使って経営を変えていく立場になった。自分がITを使う立場になって、顧客に対して分かりやすい言葉をちゃんと使っていたのかなと振り返ることがある。

 ITを駆使する目的は2つ。1つはインターナルビジネス、つまり社内の業務を変革することで、もう1つがお客様に新たな価値を提案することだ。2つは別ではなく、同時に関連しながら進めていくものだ。

 3年前、うちのIT部門は技術サポート部隊にすぎなかったが、現在はインフラを作っていくビジネスコンサルティング部隊になっている。仕事の中心がBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)になってきた。経営者がやりたいことを実現できるようになってきている。

 マクドナルドはグローバルな企業。米国では英語を話せないクルー(店舗の従業員)も多い。そういう人たちに使ってもらうシステムをそのまま日本に持ち込むと混乱が起きる。日本の社員はほとんどが大卒だからだ。ツールをそのままもらうのでなく、ツールを使う意味を考えながら作っていくことが大切だ。

 2004年に日本マクドナルドに入ったときは、1991年ごろから続いていた低迷期。既存店の売り上げも下がっていた。Quality(品質)、Service(サービス)、Cleanness(清潔さ)という外食にとっての基本を見直そうと訴えた。低迷期には独自の強さを見失っていたと思う。2004年からの2006年にかけて既存店の売上高が12.9%伸びた。同時期に外食市場は6.8%縮小した。競合するのは同じ外食だけではなく、むしろコンビニエンスストアと考えている。

 業務を改革する一方で新しい企業文化も作ろうとしている。年功序列や定年、定額ボーナスを廃止して実力があれば60歳でも70歳でも適材適所で働けるようにしていく。60歳という定年があれば50歳でエネルギーが落ちるらしい。組織全体の活力を向上させる仕組みを作るつもりだ。他にも1人のカリスマではなく、複数人が参加するマネジメントチームによる経営を意識している。

社員に向けたブログで情報発信

 現在、毎日社員に向けてブログで日記を書いている。日常の些細な話から経営の真剣な話まで雑多なテーマだ。最近ではサプライヤーなど取引先にも見てもらえるようにしている。内容よりも社員や取引先の方々との距離を縮めるのが狙いだ。

 社員とのコミュニケーションはブログだけではない。新入社員から幹部クラスまで数人で一緒に、現場にバスで出かけることもある。社員には「『商売のにおい』『現場のにおい』に敏感であれ」と伝えてきた。ITを駆使して営業情報がリアルタイムで把握できるように取り組んでいくつもりだが、日々の売り上げだけに注目していてはだめだ。

 営業情報よりコールセンターに寄せられた不満のほうが大事だったりする。営業情報は過去の話だが、クレームは明日のヒントとなる。売り上げが伸びたという情報が入っても、なぜ良いのかを徹底的に調べるようにしている。売り上げが下がった理由というのは簡単に分かるものだが、反対は分かりにくいものだ。

 ITインフラの整備も進めていく。現在は複数のシステムの集合体で連携も良くないし、維持コストも高い。強固なプラットフォームを整えて小さなアプリケーションを活用するのが理想だ。店舗のビジネスの状態もリアルタイムで把握できるようにしたい。モノポリー(独占)はいつか消える。自らをどう変革していくのか、考えるのが大切。こういった理念をIT部門の担当者に理解してもらわないといけない。成長をもたらす鍵は人にある。