写真●パネルディスカッション「実践 企業内ブログ/SNS活用術」
写真●パネルディスカッション「実践 企業内ブログ/SNS活用術」
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 3月15日,日経コミュニケーション主催のセミナー「実践 企業内ブログ/SNS活用術」講演者によるパネルディスカッションが実施された。ベンダーとして野村総合研究所とリアルコムの2社,ユーザーとしてNTTデータ,富士通ソフトウェアテクノロジーズ,ニチレイプロサーブの3社の講演者がパネリストとして登壇。企業内へのSNS導入,活用のポイントについて議論を交わした。

 野村総合研究所(NRI)からは「Web 2.0がもたらすネット社会」と題した講演を務めた山崎秀夫氏,「企業内ブログ/SNSの現実解『エンタープライズ2.0』」をテーマに講演したリアルコムからは砂金信一郎氏,企業内SNS製品「知創空間」の開発経緯を「富士通グループの7000ユーザーが育てたSNSの実力」として語った富士通ソフトウェアテクノロジーズ(FST)の川田博臣氏,「Nextiで挑む!セクショナリズム打破」で組織横断型のコミュニティ醸成を語ったNTTデータの竹倉憲也氏,「OGおよび現役女子社員をつなぐコミュニティサイト『アセロラ倶楽部』」を立ち上げた大出麻紀子氏が参加した。

経営者をうなずかせる「航空主兵」と「タバコ部屋」

 企業内ブログ/SNS活用術として議論が盛り上がったのは,「導入時に威力を発揮した経営者への殺し文句」と,セミナー参加者から募集した質問「実名と肩書きなど企業の組織構造をブログ/SNSに持ち込むべきか」という二つのポイントだった。

 “殺し文句”については,経営者の年齢層を意識した説得方法としてNRIの山崎氏が「旧軍は航空主兵への転換が遅れた」という歴史的パラダイム・シフトを比喩に使う例を挙げた。「経営者は対面コミュニケーションを絶対視する向きがある。ネットワーク上のコミュニケーション本格化に着手しなければ,若手の流出につながる」として,経営者のマインドに揺さぶりをかけるツボを披露した。

 続いてNTTデータの竹倉氏は,「ネット上のタバコ部屋が最も反応が良かった」とコメント。「タバコ部屋では仕事の話だけではなく,趣味や家族の話もする。昼休みに漫然とWebを見るより,社員同士がコミュニケーションを深められる環境を用意した方が良い」とし,費用対効果を説く直球よりも「福利厚生など変化球が有効」との経験を語った。

 リアルコムの砂金氏は,コンプライアンス(法令遵守)の観点から導入するグループウエアや文書管理システムに紛れ込ませる手法を紹介。「ノーツドミノやSharePoint Serverの“オマケ”としてなら経営者も納得する」とした。

信頼できる「ビックブラザー」はいるか

 企業の組織をSNSに反映すべきか否か。セミナー参加者からのこの難問には,パネリストも頭を悩ませた。まずFSTの川田氏が,同社のSNS製品に「上司・部下」といった階層をSNSに反映できる機能を付けたことについて「これを待っていたというユーザーもいれば,抵抗を見せるユーザーもいる。答えは出ない」と賛否両論の反応を打ち明けた。

 これを受けて山崎氏が,ジョージ・オーウェルのSF小説「1984年」に登場する監視国家の指導者「ビックブラザー」を例に挙げ「上司の前で本音が言えるかどうか。バッドニュースをくみ上げる効果を期待するなら,ニックネームの方が向いている」と通常の業務システムとは外れた運用ポリシーを答えとして提示した。

 そのうえで山崎氏は,「ある生命保険会社はニックネームでSNSを導入しているが,もちろん運営側は実名で把握している。例えば企業の人事部はすべてを知る立場にあるが,職務上それに意義を唱える人はいない」と運営側への信頼感の重要性を強調した。

 このほか,発言率に関する議論に際して,川田氏が「発言者は参加者全体の2割居れば良い方。ただSNSでは見た痕跡が残るため,閲覧するだけでも参加の意識が芽生える」と指摘。発言しないユーザーの寄与も無視できないとした。また,利用規約を定めるかという話題の中では,ニチレイプロサーブの大出氏が「規約を作る段階で『行き過ぎた発言の歯止めとなる文言が必要』と法務部門から指摘を受けた」と,規約の正当性を担保する作業が必要との見解を示した。