総務省は3月14日,「ネットワークの中立性に関する懇談会」の第5回会合を開催した。今回は,KDDI,インフォシティ,モバイル・コンテンツ・フォーラム,アップル,日本テレビ放送網の4社1団体の代表者が意見を発表した。

 会合では,(1)通信事業者がコンテンツ提供者のサービスを制御・支配することを回避する「ネットワークの利用の公平性」,(2)通信網を維持するための「ネットワークのコスト負担の公平性」,(3)その他の検討事項,の3点を軸に意見発表と質疑応答が行われた。

 ネットワーク利用の公平性については,通信事業者とコンテンツ提供者の認識の違いが浮き彫りになった。KDDIの沖中秀夫・執行役員技術渉外室長は,ネットワーク利用の公平性で問題になるのは,ネットワーク・リソースを占有する特定のトラフィックを差別的に取り扱うかどうかという問題と認識しているとした。さらにこの点について,「通信事業者同士の競争があるため,ユーザーのニーズに見合うネットワーク容量を確保し続けることになる。直ちに統一的なルールを整備する必要はない」(沖中氏)という見解を示した。

 これに対して,アップルやモバイル・コンテンツ・フォーラムといったコンテンツ提供者側は,通信事業者がアプリケーション事業に進出した際,回線とアプリケーションを組み合わせて提供することで強い競争力を持つことを懸念する。

 また,通信事業者の都合で,コンテンツ提供者のアプリケーション事業が阻害されることへの懸念を示す意見もあった。インフォシティ代表取締役の岩浪剛太氏は,「ユーザー保護の名目で公正な競争が阻害されることを回避すべき」と言う。さらに業界全体でユーザー保護の共通ルールを策定し,それを超えた部分はユーザーの自己責任とすることを提案。ユーザーに多様な選択肢を確保すると同時に,コンテンツ提供者が様々なアプリケーションを手掛けられるようにすべきと主張した。

 コスト負担の公平性については,懇談会の構成員である江崎浩・東京大学教授が「ここ最近でPtoP(peer to peer)アプリケーションを含め,インターネットを流れるトラフィックは大きく変わっている。正しい情報を基に再度検証する必要がある」と指摘。国内のプロバイダやIX(Internet exchange)から情報収集することを提案した。状況を整理し直した後,議論を仕切り直すことになりそうだ。

 その他の検討事項では,NGN(次世代ネットワーク)のオープン化について議論された。KDDIの沖中氏は「NGNは,電話網など従来の事業者網をIPベースで構築することを目指したもの。インターネットを代替するものではない。QoS(quality of service)やセキュリティ機能などは事業者が制御する。オープン化はこれを阻害しないことを前提とすべき」と主張した。

 日本インターネットプロバイダー協会やテレコムサービス協会がNGNの制御機能もオープンにするよう求めていることに対しては,「具体的にオープンにする目的を示してもらえば議論できるが,それが無いままに完全にオープンにしろと言われても対応できない」とした。これに対しテレコムサービス協会は「現在アプリケーション例などを検討している」と回答した。