写真 KDDIの小野寺正社長兼会長
写真 KDDIの小野寺正社長兼会長
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 「携帯電話の国際競争力が問題になっているが,何をもって『国際競争力』とするか,そのコンセンサスがないままに議論が進んでいる」。KDDIが3月14日に開催した定例の社長会見の席上,小野寺正社長兼会長は携帯電話のビジネスモデルを巡る総務省の動きに対して問題意識をあらわにした。

 総務省は現在「モバイルビジネス研究会」や「ICT国際競争力懇談会」を開催し,携帯電話事業者のビジネスモデルを見直す動きを強めている。特に,販売奨励金の見直しやMVNO(仮想移動通信事業者)の促進などがテーマとなっている。これらの研究会や懇談会で,構成員などから「販売奨励金やSIMロックの存在が,端末メーカーの国際競争力を削いでいる」という見解が示されている。

 こうした見解に対し,小野寺氏は反論した。「端末メーカーのシェア拡大を目指すか,部材・モジュール分野の競争力維持を目指すかで取るべき政策が異なる。日本企業は液晶ディスプレイなどの部品は4割,バッテリーでは7割の世界シェアを持つ」(小野寺氏)からだ。携帯電話サービスのビジネスモデルを変えると,部材・モジュール分野のメーカーに悪影響を及ぼすとの懸念を示した。販売奨励金が規制されれば,端末の価格が上昇して先端的な端末の導入が遅れ,その結果,部材・モジュール分野の国際競争力を削ぐ可能性があるとした。

 携帯電話端末を取り巻く環境が変化することも考慮すべきとした。「携帯電話端末の作り方は,パソコンに近いものになっていく可能性が高い」(小野寺氏)。将来的には,標準の部材とソフトを組み合わせて,携帯電話端末を構成するようになるという。「部品を寄せ集めて組み当てる企業を強化するのか,コアの部品を作る企業を強化するのか,どちらが良いのかコンセンサスを決めなければならない」とした。

 また,国際競争力に関連し,日本発の技術の標準化についてもコメントした。特に,NTTグループの研究開発の在り方に疑問を呈した。小野寺氏は「第4世代携帯電話でNTTドコモが自社方式を提案しても,我々は絶対に賛同できない」という。第2世代携帯電話のPDC方式はNTTが開発したが,新サービスの導入時期でことごとくNTTドコモに先行されたことを賛同できない理由に挙げた。NTTが標準になる技術を開発しているため,標準化が完了した時点でNTTドコモは新技術を導入できた。だが,KDDIはメーカーの製品化を待たなければならなかったという。「そのため我々はCDMA方式に移行した」(小野寺氏)。

 小野寺氏は「本当ならば,日本の通信事業者が皆で協議して提案した方が発言力が強くなる」と主張。通信事業者の研究開発は(1)ネットワーク運用,(2)サービス,(3)設備選定のための基礎研究を中心とすべきで,それ以外の分野や通信事業者自身が特許を取得して行使することには議論が必要との見解を示した。

通信料金と利用期間をパッケージ化した料金プランなど検討

 国際競争力とは別に,現状の携帯電話のビジネスモデルで“不公平感”を感じるユーザーに対し,新たな料金プランを検討していることも明らかにした。具体的には,通信料金や携帯電話端末の利用期間のパッケージ化などを検討しているという。

 販売奨励金モデルでは,携帯電話事業者は安価に端末を販売する代わりに,その後の通話料収入で利益を上げる。そのため,1台の端末を長く使い続けるユーザーにはあまりメリットがない。小野寺氏は「通信料金に応じてポイントを還元したり,機種変更時に利用期間に応じて販売奨励金を増減することで,現状でも一定の公平性を担保している」とするものの,「今の在り方で良いのか疑問があるのはその通りだと思う」とした。

 ただ販売奨励金モデルに代わる料金プランを作るには,過去に郵政省(現・総務省)が「利用期間の拘束は認められない」という見解を示していたことが足かせになっていたという。しかしモバイルビジネス研究会の第3回において,総務省は利用期間の拘束を容認する見解を示した。こうした携帯電話ビジネスを取り巻く環境が変化したことから,「より一層ユーザーが納得できるビジネスモデルを検討する」(小野寺氏)とした。