イオン情報システム部の今井政昭氏
イオン情報システム部の今井政昭氏
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 「今日の目的は仮想化技術そのものを話すことではありません。スピード経営とお客様中心という当社の理念と、その実現に向けた業務改革をお話しします」。東京・港区で3月13日に開催された「仮想化フォーラム2007」のユーザー事例講演。総合スーパー最大手イオンで店舗システムを担当する、情報システム部情報システムグループ開発チームの今井政昭氏(写真)は、こう切り出した。

 仮想化技術がテーマである講演で、仮想化技術を話すのが目的ではないとは、どういう意味か。今井氏は「業務改革によって当社の理念を実現するために、どんな技術が必要かを検討した。その結果、採用した技術が仮想化だった」と続けた。「発想の原点は、あくまで業務。業務プロセスをいかに改革・標準化するか、どんな業務要件が出てくるのか。仮想化技術は、これらを突き詰めた結果に過ぎない」(同)。

 イオンは2002年から2005年にかけて、ジャスコやサティなどの大型店の業務プロセス標準化と、Windowsを使った店舗システム整備を進めてきた。その目的は「本部からの指示に従って、担当者がその場で売価を変更したり伝票を計上したりといった、売り場で業務を完結できるシステムを構築すること」(今井氏)。この方針の下、同社は大型店向けに、POS(販売時点情報管理)や発注管理、売上げ管理、ジャーナル管理などのシステムを構築。2005年上期までに、全国に約300店ある大型店のそれぞれに、PCサーバーを6台ずつ導入した。

 次いでイオンは2006年9月から、大型店の業務プロセスとシステムを基に、全国に700店ある小型店「マックスバリュ」の業務改革に着手した。しかし、ここで課題が浮上した。

 「POSレジが10~20台の小型店舗には、大型店舗と同じシステム運用保守体制を整えるのはムリだった」(今井氏)。運用保守の専任要員を置くことは難しいし、サーバーの設置スペースも少ない。「限られたスペースにサーバーの機能を集積しつつ取り扱いを簡素化する必要があった。当然ながら、システムの安定性やパフォーマンスを犠牲にして、お客様や営業担当者に迷惑をかけることはできない」(同)。

 今井氏らは、こうした業務要件を全て満たすことのできる技術を探した。そして行き着いたのが仮想化技術だった。「大型店舗にある6台のサーバーの機能を集約して運用を簡素化するための技術を総合的に判断した」(今井氏)。

 イオンは仮想化ソフトとして、マイクロソフトの「Virtual Server 2005 R2 Enterprise」を選択した。製品選定に当たっては、安定性とパフォーマンス、多数の店舗への展開の容易さ、ベンダーのサポート体制を評価した。「店舗システムはWindowsで構築しており、ベンダーを統一した方が、サポート体制がよくなり、トータルのコストも下げられると判断した」(今井氏)。

 こうして各々の小型店舗には、大型店舗向けシステムの6台のサーバーのうち5台の機能を仮想化技術で1台に集約し、合計2台を導入することを決定。2007年2月現在、72店舗に導入した。「今までの所、無停止で稼働中。年末年始やお客様感謝デーなどの繁忙期も、問題なく乗り越えた」(今井氏)。

 大型店舗で整備した業務プロセスに基づく店舗システムを、小型店舗にも水平展開していくことで、イオンは業務改革の目的を達しつつあるという。「現場の従業員一人ひとりの働き方を標準化することで、全国一律の業務運用が可能になる。教育コストの削減や、当社の戦略に応じた素早い人材配置などが実現できつつある」(今井氏)。

 今後は2007年中に、小型店舗700店への展開を終える。イオンは大型店のシステムについても、仮想化ソフトで集約するべく検討を開始した。