パネル・ディスカッション「組込みLinux活用方法」
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Linuxを採用した松下のデジタル家電プラットフォーム「UniPhier」
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パネル・ディスカッション「ディープ・プログラミング」
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 「組み込み開発を夢のある仕事にするには,マネジメント層が一歩踏み出し,エンジニアが世界へ出て行ける道を作るべき」(The Linux Foundation Japan アドバイザリーボード議長 柴田次一氏)---組込みLinuxコンソーシアムは3月12日,「Emblixフォーラム2007」を開催した。

 パネル・ディスカッション「組込みLinux活用方法」で,CE Linux Forum(CELF) Marketing Group Chairでソニー 技術開発本部 共通要素技術部門 システムソフトウエア開発部 テクニカルマーケティングマネージャの上田理氏は「数年前,Linuxを組み込みシステムに使うことは不可能と言われたが,現在では私の知る限りデジタルテレビのすべてがLinuxを搭載している」と普及状況を紹介。松下電器産業 プラットフォーム開発センター ソフトウェア統括 梶本一夫氏は「松下はデジタル家電向けのLSIとソフトウエアを含むプラットフォーム『UniPhier』でLinuxを採用しており,ビデオカメラ,携帯電話,薄型テレビ,HDDレコーダに拡大している」と同社の利用状況を紹介した。

外部の一線の技術者と議論する機会を

 しかし上田氏は,組み込み開発は夢のある仕事になっているだろうかと疑問を投げかける。「就職のために面接に行った学生が落胆して帰ってきた。こう言われたからだ。『君に書いてもらいたいのはプログラムではなく仕様書だ。プログラムは中国かインドに書いてもらう』」。一方で,製品サイクルの短さやソフトウエア規模の膨大さ,要求される品質の高さからハードワークを余儀なくされる開発現場もある。

 「けれども,海外の組み込みエンジニアと話すと,彼らの目は爛々と輝いている」(上田氏)。日本でも組み込み開発を夢のある仕事にするには,という設問を上田氏は設定した。

 松下の梶本氏は「ハードウエア資源が制限されている中で最高のパフォーマンスを出すという挑戦は,技術者冥利に尽きる」と話す。「組み込みシステムを極めれば一生自分の腕で食える。高みが狙える世界。店頭で『これ俺が作ったんだ』これは俺が作ったんだと言えるのは組み込みシステムの醍醐味」と話すのはシャープ株式会社 技術本部 プラットフォーム開発センター 熊谷典大氏。

 NECでThe Linux Foundation Japanの柴田氏は,「技術者をうまく外部のコミュニティに出してあげると,目がいきいきしてくる。同じ問題に取り組んでいる,海外を含めた第一線の人たちと壁を越えて議論することで大きく成長する」と実体験に基づき指摘。「そのためには,マネージメント層が一歩踏み出すべき。技術者を外に出すことで,夢多き業界になる」と語った。

 また日立製作所 システム開発研究所 Linuxテクノロジ研究部 部長 杉田由美子氏は「片言の英語でも十分議論はできる。なによりプログラミング言語という共通言語がある」と,技術者に『英語の壁』を必要以上に恐れないよう呼びかけた。

ソフトウエアの地位向上を

 後半はEmblix会長の早稲田大学 理工学術院教授 中島達夫氏をモデレータに「ディープ・プログラミング」をテーマとしたパネルディスカッションが行われた。

 中島氏は自らがマイクロカーネルOSを開発した経験を語った。「3年間,毎日朝10時から夜2時までコードを書いた。深い経験に到達するには時間がかかる」(中島氏)。モンタビスタ ソフトウエア ジャパン 技術本部本部長 木内志朗氏はLinuxとT-Engineを協調動作させる試みを紹介した。

 リネオソリューションズ 統括部長 小林明氏は,Linux ZaurusへのLinux移植を行った際,メモリーが限られている中でのi-node最適化による省メモリー化や,スワップ領域がない場合のプロセス管理最適化などの経験について語った。

 トライピークス 取締役最高技術責任者 湯浅陽一氏はは最新のLinux開発動向を紹介。「ソースコード管理にgitという新しいルールが利用されるようになったことでマージが速くなり,カーネル開発スピードが加速している」と話した。

 アックス 代表取締役社長 竹岡尚三氏は,実体験に基づくカーネル停止や性能低下などのトラブル事例を紹介した「何か動作が遅い,という場合,浮動小数点演算ユニットがないハードウエアではLinuxカーネルがソフトウエアで浮動小数点を実行している場合がある。なまじ正常に動いているので気がつきにくい」(同)。

 また竹岡氏はソフトウエアの地位を向上させなければならないと指摘した。「いいソフトウエアを書けば機器のトータルなコストを削減できる。頭数ではなく,技術のあるプログラマを集めることが開発を効率化させることを経営者は理解すべき」(竹岡氏)