電子情報技術産業協会(JEITA)が2007年3月12日に開催した「デジタル家電セミナー2007」で、産業技術総合研究所 デジタルヒューマン研究センターの持丸正明副センター長は「デジタルヒューマン―人間生活中心のロボット技術」と題して講演。最新のロボット技術とその応用方法について説明した。
同氏によれば、ロボットの研究には3つの側面があるという。外界を知覚して認識する「センシング」、行動の計画を立てる「プランニング」、実際に行動を起こす「アクション」の3つだ。
「センシング」技術の具体例としては、同研究所のロボット「HRP-2」の前に置かれた階段の輪郭をHRP-2自身が備える視覚機能で検知して、2足歩行で上り下りさせる様子を紹介。人間の姿の3次元データを登録しておき、ロボットがとらえた映像から人間の姿を検知することも可能だという。「プランニング」の例としては、HRP-2の視覚機能による映像から部屋の地図を作成し、障害物を検知して移動経路を作るといったマッピング技術を紹介。「アクション」の分野では、リアルタイムで外界の状況に対応する処理の高速化を進めていると述べた。ロボットは動力学に基づいて関節の角度を計算しながら歩行を実現する。ところが、歩行中に何かが接触するなど、力学環境が変わると簡単に転んでしまう。そこで、同研究所では、従来1秒程度だった歩行軌道生成の処理を、現在では約20ミリ秒に短縮した。
人間の心理状態まで分かるロボットが登場
同研究所と共同でロボットを開発したいという企業には大きく3通りがあるという。1つは自動車関連の会社。モビリティーを重視するために、足の付いたロボットを開発したいと考える傾向がある。2つ目は電機メーカー。足はタイヤで十分だが、センサーを内蔵し、処理能力を備え、命令を実行するという自己完結したロボットを求める傾向がある。3つ目が住宅やエネルギー関連のメーカー。ロボットはあくまでエージェントであり、全てのセンサーや処理能力を搭載する必要がないと考えている。
3つ目の住宅やエネルギー関連のメーカーの考えでは、センサーや処理能力は住宅の中に点在していてもよい。この発想に基づいて開発した例が家庭用ロボットの「Penguin2」だ。超音波発信機を搭載しており、各部屋に設置した受信機の情報を基に、ロボットが家の中の位置を正確に把握できる。各部屋の受信機はマイクも内蔵しており、ユーザーが別の部屋からロボットを音声で呼び出すことも可能。自分が見える範囲、聴こえる範囲だけでなく、部屋全体と融合したロボットともいえる。センサーからの「さまざまな情報を取得することで、この人間はこんな心理状態らしい、こんな行動をしようとしているらしいと、ロボットが認知できるようになるだろう」(持丸氏)。
同氏によれば、センサーでデータを集めて、人間の行動を知るというロボット研究を拡大していくと、さまざまな産業での応用ができるようになる。例えば、超音波タグによって子供の行動に関するデータを集め、子供の特性を統計分析すれば、家電の事故原因の予測や製品の改良に応用できる。多くの人の体型の計測データを集めることができれば、健康管理サービスや衣服や眼鏡など身に付けるものの製品開発を効率化できる。持丸氏は「持続的にデータを蓄積して、その知識の循環をする。これが、ロボットがインビジブル(透明)になって社会に埋め込まれた状態である」という。いずれはインビジブルなロボットがサービスを駆動していくと将来を予見して講演を締めくくった。
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階段の上り下りも可能 |
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ロボットが「センシング」「プランニング」「アクション」の3要素を使って歩行する様子 |
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