米Googleはこれまで数年間,「オフィス・プロダクティビティ・ソフトウエアという儲かる市場で米Microsoftに挑むつもりはない」と何度も主張してきた。ところが,オンライン検索業界の巨人であるGoogleは2月第4週,インターネット経由で利用可能なプロダクティビティ・サービス・スイートをリリースし,Microsoftに対抗し始めた(関連記事:「Google Apps」の有料版,年間50ドルでサポートやカスタマイズを強化)。

 「Google Apps」という名称の新サービス・スイートは,既存のメール,インスタント・メッセージング(IM),スケジュール管理,ワープロ,表計算機能を組み合わせ,比較的安価な企業向けライセンス体系を設定した。対応するMicrosoftのサービスは強力な機能を備えるものの,価格がはるかに高い。Google Appsに対しては,資金繰りの苦しい規模の小さな企業が高い関心を示すだろう。ただし,Googleは明らかにハイエンド市場も狙っている。

 Google Appsには2つのバージョンがある。1つは広告の入る無料版で,2Gバイトのメール用ストレージを提供する。もう1つは,1ユーザー当たり年額50ドルの料金が必要な「Google Apps Premium」で,メール用ストレージ容量が10Gバイトになる。両バージョンとも,専用のドメインでメール「Gmail」,スケジュール管理「Google Calendar」,IM「Google Talk」を使うことが可能で,Webベースのプロダクティビティ・サービスであるワープロ「Google Docs」および表計算機能「Google Spreadsheets」,Webページ作成ツール「Google Page Creator」が利用できる。

 ただしGoogleは,これまでMicrosoftのライバルたちが実行した方法と異なる戦略をとった。Microsoft Officeを真似たデスクトップ向けオフィス・プロダクティ・スイートを新たに提供するのではなく,オンライン・サービスとしてのみ機能を提供する。Googleの強みをいかすと同時に,Microsoftの戦略の弱点をあらわにする策略だ。Microsoftはデスクトップ向けソフトウエアとインターネット用サービスの両方を手がけているが,Microsoft Officeの中核機能をWebにうまく移せずにいる。

 有料サービスを提供するというGoogleの方針は,Microsoftに計り知れない影響を及ぼす。Googleのサービスに移行する大手顧客はわずかだろう。しかし,小さな企業の多くは様子をうかがい,Googleの低価格に魅了されるはずだ。もっとも,Microsoftにも強みは残っている。MicrosoftのOfficeアプリケーションはオンライン環境でも動き,Googleのサービスよりも機能が豊富である。また,Googleの対企業サポート能力は未知数である。

 それでも,今回リリースされるGoogle Appsの初版は,興味深い戦いの火ぶたを切ったと言えるだろう。Googleはサービスを拡充していくし,MicrosoftはWebベースのOfficeサービスの魅力を高めようとするはずだ。