CSK取締役の有賀貞一氏
CSK取締役の有賀貞一氏
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 「これまでソフトウエアはずっと作品だったが,工業製品へと扱いを進展させるべき時期が来た」---。2007年2月9日,NET&COM 2007の基調講演においてCSKホールディングス取締役の有賀貞一氏は,一向に工業製品としての扱いがされていないソフトウエア産業を斬るとともに,将来のソフトウエア業界のあるべき姿と対処策を説いた。

 「現在のITはインフラ化とコモディティ化が進んでおり,品質に対してピンときていない人が増えた。トラブル発生時に業務を継続するということについてよく考えているとは思えない」---。講演で有賀氏は,IT業界のゆるい気分を一気に斬ってみせた。2007年問題に対しても,製造業は重要視しているものの,IT業界ではあまりピンときていないという。

 ソフトウエア開発の工学化についても,40年も前から重要性が叫ばれているが全然ダメと,バッサリ。下流工程でバグをつぶしている最悪の状況という。組み込み系の人材の少なさも問題という。世の中の工業製品を見渡すと,トヨタのレクサスは制御系で700万ステップ,カーナビ関係で700万ステップのソフトウエアを積んでいる。車もすでにソフトウエア商品になっているというわけだ。さらに,「2000億の売上があるのに利益がゼロだとか,1500億の売上に対して利益が10数億だとか,ソフトウエア企業はひどい有様。こんな業界に若者が来るわけがない」と指摘する。

 こうしたソフトウエア産業の様々な問題点を改善するために,産業構造審議会の情報経済分科会情報サービス・ソフトウェア小委員会が取りまとめたのが,「情報サービス・ソフトウェア産業維新」という報告書。業界の問題点を把握するとともに,あるべき姿を定義し,そのためにすべき施策を提言している。

 情報サービス・ソフトウェア産業維新が指摘するソフトウエア産業の重要な課題は,低い信頼性,商取引の不透明さ,輸入超過など。これらを改善するために,3つの施策を提言している。(1)人月ではなくモデル契約をベースとする課題解決型のSIへの転換,(2)ソフトウエア産業のサービス基盤提供産業への転換,(3)人材育成の3つである。「この3つをやらないとソフトウエア業界は何も変わらない」(有賀氏)。

 また,経済産業省はシステムの重要度をABCの3ランクに分け,それぞれのランクの情報システムが守るべき基準を示した「情報システムの信頼性向上に関するガイドライン」を2006年3月末に公表したが,これについても「ガイドラインが出た以上,無視するわけにはいかない。何か問題が起こった時には,責任を問われるはずだ」とする。

 有賀氏は,ソフトウエア業界を建築業界と比較しながら,ソフトウエア業界がいかに甘い業界かも強調した。例えば,建設業界には300以上の「業法」が存在し,その大半が罰則規定付きであるという。一方,ソフトウエア産業には法律が何も存在しない。このため,まずは自主規制から始めなければならないと指摘する。

 要件仕様についても,あいまいな表記を撲滅する運動が必要という。上流工程から工業化を進めて不具合を消しておけば,下流工程はスムーズになる。さらに,ソフトウエア業界全体についても,売上高で3000億~5000億円規模の会社が複数あるようでなければダメと語る。「300億円の案件を売上高1000億円の会社に発注しようとは思わない」(有賀氏)。氏によれば有名な企業の中にも,PBR(Price Book value Ratio,株価純資産倍率)が1以下という「今すぐにでも解散した方がマシ」(有賀氏)な会社が多数あるという。