写真1●基調講演のトップバッターを務めたJohn Battelle氏
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写真2●ハーバード・ビジネススクールのAndrew McAfee助教授
写真2●ハーバード・ビジネススクールのAndrew McAfee助教授
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写真3●「データ・ウエアハウスの父」として知られるBill Inmon氏
写真3●「データ・ウエアハウスの父」として知られるBill Inmon氏
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 「欲しい時に,欲しい情報を,欲しい形で提供する理想的な技術とは何だろうか。それは検索エンジンだ」。検索ソフトを開発するノルウェーのファスト サーチ&トランスファ(FAST)社CEO(最高経営責任者),John M.Lervik(ジョン・マーカス・レルビック)氏はこう強調する。

 FASTは2月7日から米サンディエゴでカンファレンス「FASTforward '07」を開催している。「検索がITのアーキテクチャやビジネスを変える」というレルビックCEOの主張を裏付けるように,8日の基調講演にはWeb2.0やIT関連のキーパーソンが相次いで登壇。講演会場には数多くの聴衆が詰めかけた。

 基調講演のトップバッターは,有力ブログの支援・宣伝会社Federated Media Publishingの創業者兼チェアマンのJohn Battelle氏(写真1)。Battelle氏は米雑誌「Wired」の立ち上げにも関わり,最近ではGoogleを取材したノンフィクション「ザ・サーチ」を執筆している。「企業の宣伝や販売では,正しいモノやサービスを,正しい場所・顧客に,正しいタイミングで届けることを目指す。検索はこれらをいとも簡単に可能にした。顧客が欲しい情報を入力したときに,検索エンジンは欲しい情報をその場で提供するからだ。企業には,検索は顧客との重要な対話の一部であることを認識して欲しい」(Battelle氏)。

 さらにBattelle氏は「欲しい情報をすぐに得るための次世代型サイト・ナビゲーション・ツールとして,検索は最も重要な要素の一つになった。あなたのサイトが飛躍するためには,ストラクチャ(構造)やコンテクスト(文脈)が必要だ」と指摘する。ここで言うストラクチャとはタクソノミーやオントロジーを導入して情報を分類したうえで,それぞれの関連性を人間の眼から見て,より整合性のあるものにすることである。コンテクストとは,ユーザーの属性や検索履歴を考慮すること。これにより,ユーザーの趣味趣向に合った検索結果を導き出す。

 次に登壇したのは,ハーバード・ビジネススクールのAndrew McAfee助教授(写真2)。「Enterprise 2.0:The Next Disrupter」と題して講演した。McAfee教授はITのビジネス活用を主なテーマとして研究しており,最近はWeb2.0を活用した企業の姿を「Enterprise 2.0」と呼んで研究を進めている。

 McAfee助教授によると,Enterprise 2.0の定義は次のようになる。「Enterprise 2.0 is the use of emergent social software platforms within companies, or between companies and their partners or customers.(パートナー企業や顧客を含む,企業間で形成された新しい社会的なソフトウエア・プラットフォーム)」。「Web2.0は企業では使えない,と考える企業人は多いが,それは大きな間違いだ」(McAfee助教授)。

 そしてMcAfee助教授は,「検索は企業に大きな利益をもたらす」と強調。社内外の共同作業,ビジネス判断のための情報分析作業,ナレッジ・マネジメント(KM)のあり方を変えると語った。KMについては「一生懸命整備した企業ほど使われていない」と現状を指摘した上で,検索はデータ整備の手間が従来のKMシステムに比べて少ないことから,「これまでのKMとは違った形でナレッジの共有が進むことだろう」と予見した。

 Web2.0に類する情報共有ツールとして,Wikiやblogの社内活用に注目が集まっている。「KMで企業が経験してきた“作ったが使われない”という悩みは,WikiやブログなどWeb2.0に類するツールでも同じだ」(McAfee助教授)。McAfee助教授はコーチングや報酬,パイロット・プロジェクトの推進など,「マネジメント層によるけん引が,文化としての定着には必要だ」と述べた。

 続いて,「データ・ウエアハウスの父」として知られるBill Inmon氏を囲むディスカッションが行われた(写真3)。テーマは,ビジネス・インテリジェンス(BI)と検索技術。他のメンバーは,FAST社でマーケティングの責任者を務めるDavor Peter Sutija氏らである。

 まずFASTのSutija氏が現在のビジネス・インテリジェンス(BI)が抱える問題を述べた。「データ・ウエアハウスは本来,自由にデータを分析するための仕組みとしてユーザーに向けて作られた。しかし,効果的に使うにはデータの整備などシステム管理者の負担が大きく,自由度が低い。そこで役立つのが検索だ。多くのデータを検索対象にでき,データを正規化する必要がない検索ソフトは『レガシーBI』を変える」。

 Inmon氏は「BIの質(データ分析の容易さや導き出される分析結果の質)は,データの品質に左右される。だが,多くの企業はデータの品質に眼を向けていない。対策すべき問題としては挙がっていても,下位の方に追いやられている」と指摘。続いてFASTの検索ソフトが備えるデータ・クレンジング機能について言及。BIと検索ソフトの組み合わせには,相乗効果が期待できると述べた。