写真●東洋ゴルフクラブの改善報告書を示す遠藤功氏(ローランド・ベルガー会長)
写真●東洋ゴルフクラブの改善報告書を示す遠藤功氏(ローランド・ベルガー会長)
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 「戦略や技術で差別化することは難しい時代になった。差別化のポイントはむしろ,業務オペレーションを担当する現場の力(=現場力)にある。現場力を向上させるために,問題や予兆を否応なく見えるようにする“見える化=見せる化”に取り組んでほしい。だが,見える化は手段であって目的ではない。見える化した後が正念場だ」――。ローランド・ベルガー会長で早稲田大学ビジネススクール 経営専門職大学院 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授の遠藤功氏は2月9日,「NET&COM2007」の基調講演で満員の聴衆に訴えた。

 遠藤氏は,300社以上のコンサルティング経験から,組織の現場力には大きな格差があると指摘する。「日本では現場が軽視されがちだが,実は現場にこそ企業の競争力が埋め込まれている。企業が直面している多くの問題は現場にいる個々の担当者にしか分からない。担当者が気づいた問題を改善活動に反映できるかどうかで,現場力が変わってくる」。その具体例として遠藤氏は,トヨタ自動車,花王,アパレル業のしまむら,東洋ゴルフクラブなどの現場担当者が取り組んでいる改善例と効果を示した。

 例えば東洋ゴルフクラブでは顧客満足度を高めようと,パート従業員を含むキャディーたちが自らロスト・ボールを減らすために「なぜ見つからないのか」を繰り返し考えたという(写真)。この取り組みにより,28個のロスト・ボールは3個に減った。現場から挙がる問題の指摘は月400項目に達し,それぞれ改善に取り組んでいる。その結果,顧客の満足度は約94.5%,リピート率は90%を超えるまでになった。

 ここで重要なのは,「正社員だけでなく,契約社員やパート社員,アルバイトに至るまで,現場を支えるすべての人が当事者意識を持って改善に取り組むことだ。改善にはトレードオフが付きまとうが,その克服こそが現場の使命であり意義である」(遠藤氏)。つまり,(1)自ら問題を発見できる,(2)一部の人ではなく全員が同じ問題認識を持つ,(3)二律背反を解決するなど高い志を抱く,という三つの条件を満たせれば,その現場は強くなれると遠藤氏は語る。

 そうした強い現場を生み出すための最初の一歩が“見える化”にあると遠藤氏は指摘する。「問題が起きてもすぐに気づいて対処できれば,被害は大きくならない。問題が起きる前の予兆に気づければ,もっといい。昨今相次ぐ企業の不祥事も,問題が起きている事実をタイムリーに知り,それが危険であるという共通認識を持てたなら防げたはずだ」――。とはいえ,経営陣が内部統制や会社の管理のために「管理の見える化」だけに取り組んでも,単なる管理強化にしかならず,現場は反発するだけ。遠藤氏はむしろ,現場が自分の問題解決のために自発的に取り組む「自律の見える化」を重要視する。

 自律の見える化を推進するためのポイントを遠藤氏は10個挙げた。(1)問題の棚卸しから始める,(2)見せたくないものや見られたくないものほど見えるようにする,(3)見せる項目を絞り込む,(4)鮮度やタイミングを重視する,(5)人間と機械のどちらで問題を検出するかを使い分ける,(6)ビジュアルで分かりやすく訴える,(7)現場に見える仕組みを作り上げる,(8)見えることは目的ではなく見えた後が勝負と意識する,(9)見える化したノウハウを他部署などと共有する,(10)経営トップが自分を見える化するなど取り組みを牽引する――である。

 こうして見える化できれば,「そこからは“つなぐ化”と“粘る化”だ」と遠藤氏は言う。つなぐ化とは,問題に気づき改善しようとする個人や部署の取り組みを,組織の縦と横に連鎖させること。粘る化とは,問題が解決されるまで愚直に継続することを指している。「最低でも10年間は継続することが必要。個々の取り組みを孤立化させないように,発信し合い連携していくことまで考えて見える化に取り組んでほしい」(遠藤氏)。