NTTドコモの連結棚卸資産の推移(NTTドコモの決算資料を基に日経パソコンが作成)
NTTドコモの連結棚卸資産の推移(NTTドコモの決算資料を基に日経パソコンが作成)
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NTTドコモの中村維夫社長。「SIMロックを外すなとは言わないが、さまざまな問題点を踏まえて議論する必要がある」
NTTドコモの中村維夫社長。「SIMロックを外すなとは言わないが、さまざまな問題点を踏まえて議論する必要がある」
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 「携帯電話の単価が下がっており、当社の販売奨励金(インセンティブ)が増加していることは事実。しかし、『FOMA 903iシリーズ』など特定の機種だけが値下がりしているわけではない。全体的に価格が下がっていると認識している。端末の不良在庫も、2006年度当初は多かったがだいぶ解消している。1000万台は持っていない――」。NTTドコモ 代表取締役社長の中村維夫氏はこう語り、同社の端末が販売不振で在庫が拡大しているとの一部報道を否定した。2007年1月31日に開催された第3四半期の決算説明会の席で明らかにした(決算資料)。

 同社は携帯電話番号ポータビリティー(MNP)制度の開始後、契約数の伸びでKDDI(au)に大きく水をあけられ、ソフトバンクモバイルにも詰め寄られている。2006年11月には、同社設立以来初となる契約数純減も記録した。これに加えて、2006年初頭から携帯電話の機種数を大幅に拡充したこと、店頭での販売価格が下落傾向にあること、新機種の販売後も旧機種が長期間販売されていることなどから、NTTドコモの抱える在庫水準が悪化しているとの見方が根強い。

 中村氏によると、「2006年12月末時点の端末在庫は約350万台。同社における端末の平均販売台数の1.5カ月分に相当する」という。2006年10~12月の端末販売台数も「MNPの開始後、販売台数が増加している」(中村氏)、「旧機種の在庫も順調に解消している」(NTTドコモ 取締役執行役員の坪内和人氏)と説明しており、端末の販売状況は健全であるとアピールした。

 ちなみに、同社が四半期ごとに公表している連結貸借対照表によると、端末在庫を含む棚卸資産の総額は2006年6月末の2521億円がピーク。その後は減少に転じ、2006年12月末は1687億円まで減少している。とはいえ、2005年度まではおおむね1500億円程度で推移していたことを考えると、まだ予断を許さない水準ではある。

端末の発売遅れは「競争施策上、早めに発表しているだけ」

 同社が発表した2006年4~12月連結決算は、売上高が対前年同期比0.4%増の3兆5970億円、営業利益が同2.4%減の6769億円の増収減益。税引前利益は同16.1%減、純利益は同21.8%減と大幅に減少しているが、これは2005年度にオランダKPNモバイルと英ハチソン3G UKの株式売却益を営業外利益として計上していたことに伴うものである。

 通期の営業利益予想(8100億円)に対する進ちょく率が83.6%と高いこともあり、発表会では「通期業績を上方修正する考えはないのか」との質問が寄せられた。これに対し中村氏は、「春商戦いかんだが、端末の単価が下がりインセンティブが増えているので、苦しいというのが正直なところ」と慎重な見方を示した。「KDDI(au)の端末価格に対し、どれくらいのかい離でついて行けるかが重要になる」とも語り、競合他社の端末の価格設定次第では、今後インセンティブを積み増して端末価格のさらなる引き下げを促す可能性があることも示唆した。

 「FOMA M702iS/M702iG」「同 903iXシリーズ」「同 903iTVシリーズ」など、最近の新製品において発表から発売までに半年近く要する機種が増えていることについては、「あくまで競合他社に対する競争施策上、発表を前倒ししているだけ。開発自体はスケジュール通り進んでおり、開発工程に遅れが生じているということはない」(中村氏)とした。

SIMロック解除、「外すなとは言わないが……」

 決算発表会の質疑応答で中村氏は、現在販売中の携帯電話の全機種に掛けているSIMロックについて「SIMロックを外すなとは言わない。しかし、さまざまな問題点を踏まえて議論する必要がある」と語り、総務省の「モバイルビジネス研究会」などの場における十分な議論を求めた。

 NTTドコモ自身の状況については、「単にSIMロックを外しただけの端末では、通話とショートメール(SMS)しかできない。たとえば当社の端末でソフトバンクモバイルに契約しても、そのままでは『Yahoo! ケータイ』のトップ画面すら表示できない。こうした状況をどう判断するのか」(中村氏)と指摘し、各通信事業者が独自に開発した機能やサービスを端末に盛りこんでいる状況で、単にSIMロックだけを解除しても効果は薄いとの認識を示した。

 また、「当社とソフトバンクモバイル、イー・モバイルがいずれもW-CDMA方式を採用している一方、KDDIはCDMA2000方式を採用している。当社の端末でSIMロックを外し他社の通信網で使うことはできるが、KDDIの端末でSIMロックを外しても、国内他事業者の通信網では使えない」(中村氏)とも語り、通信方式の違いによりKDDIだけが有利になる可能性があることに疑問を呈した。

 業界全体への影響については、「SIMロックの解除により端末の使い回しが可能になると、年間5000万台を出荷している国内の端末メーカー11社は今後どうなるのか。端末の流通経路が変わると携帯電話の販売代理店はどうなるのか。そして国内の携帯電話業界としての国際戦略はどうなるのか。さまざまな問題点を議論する必要がある」(中村氏)とした。