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 2007年、企業のIT投資はどうあるべきか。団塊の世代を中心とした熟練技術者の退職にどう取り組むべきなのか。大手ソフト会社の日本オラクルで社長を務める新宅正明氏(写真)が、自社のビジネス戦略にとどまらず、多くの日本企業が直面するこれらの問題を含めて率直に語った(関連記事「15人のIT企業社長,2007年を読む 日本オラクル 新宅正明社長」)。

-2007年のIT産業を取り巻く環境をどのように見ていますか。

 ユーザー企業のITに対する投資は回復してきたと思います。しかし、いまだに新規投資は伸びていない。IT投資の8割が運用や保守に回されている現状は、20年前から変わっていません。この状況を打破する必要があります。

5年後を見据えたIT投資計画の立案が重要

 企業が本当に取り組むべきは、「3年後、5年後に企業が目指す方向を支援するためにどのようにITを使うか」、です。そのために必要なのは、どういった分野に投資をしていくかをあらかじめ立案しておくことです。

 企業の将来を考えれば、運用にばかりコストをかけてはいられないことは自明でしょう。今、運用や保守にかかっているコストを削減し、企業としての競争力を生み出すためにITを利用しようというのが当然の考えです。おそらくこういったことを実現しようとすれば多くの企業が、業界標準に技術を採用し、統一したアーキテクチャに基づいてシステムを開発する方向に向かうことになるでしょう。

-企業の中には、ITを将来どうやって活用すべきかについて考えようとしても、内部にこういったことができる人材がいない場合が少なくありません。

 “西暦2007年問題”などが理由で、IT関連の人材不足に悩むユーザー企業があるのは事実でしょう。こうした状況はITベンダーにとっても好ましいものではありません。

 単に企業としての利益を考えれば違うのかもしれませんが、ユーザー企業が強くならなければ、我々ITベンダーも成長できません。むしろ、我々ITベンダーをユーザー企業が引っ張っていってほしい。ユーザー企業には、2007年問題をうまく利用するような考えがあってよいと思います。

 具体的にはこうです。2007年前後に退職するのは、ユーザー企業の人材だけではありません。ITベンダーやシステム・インテグレータからも、優秀なプロジェクト・マネジャも退職していく。これらの人々は、大小様々な規模のプロジェクトを経験した歴戦の強者です。自らが内部にいたのですから、ITベンダーとどう付き合うべきかもよく分かっている。ユーザー企業は、これらの定年退職したベンダーの優秀な人材を採用してはどうでしょうか。こういった人々が持っている知識やノウハウを生かさないのは本当にもったいないことです。

-企業は日本版SOX法への対応など内部統制についても悩んでいます。

 内部統制はITを活用するだけ解決できる課題ではありません。しかし、ITをうまく利用することで、効果を出すことはできます。

 例えば、内部統制を整備しようとすれば、関連会社の統制を考えていかなければならなくなります。そのためには、会計や人事などの業務をシェアド・サービス形式で提供するのが効果的です。シェアド・サービスを実現させるためには、ITの技術が不可欠です。こうした分野については、オラクルが支援できます。

一つのアーキテクチャで、統合製品を提供する

-新宅社長は、新しいオラクル・ブランドを確立したいと言われています。新しい“オラクル”とは何を指しているのですか。

 オラクルは最早、データベースの領域だけでビジネスして満足する会社ではないということです。「Fusion」という一貫したアーキテクチャに基づいて、ITの基盤からビジネス・アプリケーションまで、業務にかかわるすべて分野のソフトを提供するのが新生オラクルなのです。オラクルは今やこうした会社になっているのですが、まだまだ十分に実像を伝えきれていない感じています。

 新生オラクルを象徴するものは二つあります。一つは、Webアプリケーション・サーバーやビジネス・インテリジェンス、セキュリティ製品などのミドルウエア製品で構成する「Fusion Middleware」です。Fusion Middlewareの存在については、少しは知られるようになってきましたが、今年は、実際にユーザーに製品を利用してもらって、その成果を実感してもらいたいと考えています。

 二つ目の、ERPパッケージ(統合業務パッケージ)などの業務アプリケーション製品です。日本ではまだ米オラクルが買収したアプリケーション製品の価値を示すことができていません。日本オラクルと、米オラクルが買収した旧ピープルソフトや旧シーベルの製品を扱う日本オラクルインフォメーションシステムズ(OIS)とが協力して、ERPの分野で1位になりたい。現実に、2009年にはSAPに追いつくことを目標に掲げています。当社の製品群があれば、不可能ではないことです。

-新生オラクルが成長していく上では課題もあるはずです。

 パートナーの協力です。特に、Fusion Middlewareは様々な技術の集合体であり、すべてを理解できる企業はほとんどいないでしょう。特定の技術分野に強いインテグレータとどのように協力関係を構築するかがカギになります。中小規模の企業でも、セキュリティに強みを持つ企業などと一緒にビジネスを展開していきたいですね。

 米オラクルの企業買収によって、小売業向けのRetekや通信業向けのPORTALなど各業種に強いアプリケーションがそろってきました。業務アプリケーションを提供するに当たって考えなければならないのは、人材です。企業におけるアプリケーションの作り方は変わってきている。SOA(サービス指向アーキテクチャ)やSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)がその一例です。業務アプリケーションを導入する場合には、ITの最新動向に加え、それぞれの業界の業務に関する知識も必要になります。業務アプリケーションを提供していくために、最新技術の知識や業種固有のノウハウを持ったコンサルタントの増強に力を入れています。

Database 11gに期待

-一方で直近の2007年5月期の中間決算では従来、中核ビジネスだったデータベース製品の販売が不調でした。

 確かに中間決算では、中規模システム向けのデータベース製品「Oracle Database Standard Edition」や大規模システム向けの「同Enterprise Edition」が減収となりました。しかし、打つべき対策を実施していますから、通期で見れば、必ずプラス成長に転ずるはずです。

 それから2007年はいよいよ、データベース製品の新版「Oracle Database 11g」をリリースします。まだ詳しく話せませんが、11gには企業にとって魅力的な様々な新機能があります。ビジネスの面からも期待できます。

 ただビジネス全体を考える際には、今年は企業のIT投資がさらに加速するのか、それとも停滞するのかを見極めなければなりません。特に、大幅なマイナス成長だった中小規模システム向けの製品については、今後どうなっていくのかを注視して分析しているところです。最悪の場合には、データベース製品の売り方そのものを変えることも検討することもあり得るかもしれない。単純に楽観視しているわけではありません。

-最後に、個人的なお話を伺います。トライアスロンを始められたとお聞きしました。

 長年、マラソンやってきましたが昨年、初めて海外のトライアスロン・レースに出場しました。それまではほとんど泳げませんでしたし、競技用の自転車に乗るのも初めてでしたが、何とか4時間を切ることができました。友人に強く勧められてやることにしたのですが、いい経験ができたと思います。一緒にやっている仲間もできましたし、今年もチャレンジしようかと思っています。