米MuleSourceのDave Rosenberg CEO(左)とRoss Mason CTO(右)
米MuleSourceのDave Rosenberg CEO(左)とRoss Mason CTO(右)
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 サービス指向アーキテクチャ(Service Oriented Architecture:SOA)という言葉を,バズワード(意味のないマーケティング用語)だととらえているユーザー企業は多いのではないだろうか。SOAという言葉にはたいてい“商用製品を売り込みたいベンダーの思惑”がセットになっているからだ。ただ,SOAという考え方自体が悪いわけではない。「SOAを導入したいがベンダーに踊らされたくはない」。そう考えるユーザーにとって一つの選択肢になるのが,無料で使えるオープンソースのESB(Enterprise Service Bus),Muleである。ESBは,SOAによるサービス/アプリケーション統合の基盤となるミドルウエアであり,異なる通信プロトコルの間でのデータのやり取りを可能にする。

 Muleの有償サポートを提供している米MuleSourceのCEO(最高経営責任者),Dave Rosenberg氏は「Muleのメリットは,既存の環境に合わせて少しずつ導入できる点だ」と語る。アプリケーションの容量が40MB程度と軽量で,Muleのサーバーを増やしてもライセンス料が発生しないためだ。これに対し,商用のESB製品は最初から大規模導入するのが一般的。アプリケーションの容量が数GBと大きく,サーバーを増やすとそれだけライセンス料がかさむためである。また,商用製品ではそれぞれの製品専用のAPIやツールを使う必要があるのに対し,Muleはソースコードにアクセスできるため自由にカスタマイズできる。MuleのAPIはドキュメント化されており,ユーザーが自分でプラグインを作れる。

 Muleが対応している通信プロトコルは,SOAPやJMS(Java Message Service)など20種類以上。IBMのAS400 Data Queuesといったプロトコルにまで対応している。「商用でこれに対応しているのはIBMの製品だけ。他社はサポートしていない」(Rosenberg氏)。オープンソースだからこそ,ベンダーの垣根を越えた対応が可能になるのである。

 「無料で使える」と聞くと,処理能力が気になるが,その点も商用製品と遜色ない。「安かろう悪かろうではない」(Rosenberg氏)。商用のESB製品を上回る処理能力を示したというレポートもあるという。

 Muleは,MuleSourceのCTO(最高技術責任者)であるRoss Mason氏が中心になって開発を進めている。開発のきっかけは,同氏が2000年~2001年ごろにしていたロンドンの投資銀行の仕事だという。七つのアプリケーションを統合するプロジェクトだったが,システム開発は困難を極めた。そこでESBの考え方を取り入れたところ,うまくいったという。これにヒントを得て,同氏が2003年にオープンソースのプロジェクトとして開発を始めたのがMuleである。これまでのダウンロード数は50万以上に及ぶという。

 2007年5月には,Mule 2.0をリリースする見込みだ。コンポーネントのホットデプロイとバージョニングに対応する。これにより,移行前の古いコンポーネントと新しいコンポーネントの両方を動かしながら段階的なコンポーネントの移行が可能になる。クラスタリングにも対応する。

 Muleは米国ではすでに多くの導入事例があるという。導入の際には,DI/AOPコンテナのSpring Framework,WebコンテナのTomcatと組み合わせる例が多い。三つのソフトウエアの頭文字を取って「SMuT」と呼ぶ。オープンソース・ソフトウエアだけでSOAのシステムを構築できるのである。

 日本での導入事例もある。オージス総研は,2006年にMuleを利用して社内人事情報システムを構築した。Rosenberg氏は今後の日本市場に期待を寄せる。「日本では新しい技術はなかなか広まらないが,いったん広まりだすと一気に普及が進むという特徴がある。例えば携帯電話のように。日本にはレガシー・システムも多く残っているのでSOAは有効なはずだ」(同氏)。