量子暗号通信の仕組み
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量子暗号鍵生成システムの構成
量子暗号鍵生成システムの構成
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 科学技術振興機構(JST)とNECは,オフィスなど商用の光通信ネットワーク環境で稼動する量子暗号生成システムを開発した。

 量子暗号は,計算機などの技術が進歩しても解読が不可能であることを保証する暗号方式。ただし従来は,計算機資源に制約がないこと,単一光子を発生する光源を使用するといった条件を前提としており,実際に稼動している商用の通信装置には適用できなかった。

 今回,こうした条件が整わない場合でも,盗聴者に漏洩する情報量を推定できる理論を構築し,安全性を保証するソフトウェアを作成した。また,盗聴者が正しい暗号鍵を推定する確率を減らすために行う秘密増幅という操作に必要なパラメータを,伝送データから自動的に抽出する方法を開発した。パラメータを精度よく推定するため,パルスごとに4通りの光強度をランダムに変化させて安定して送信する量子暗号装置(62.5MHz)をNECが開発した。

 これらの技術を使い,商用の通信ネットワークシステム上で実験を行った。その結果,20kmの光ファイバー伝送後に,盗聴者が得られる情報量が1ビットあたり128分の1以下になる暗号鍵を,毎秒2000ビットの頻度で生成することに成功した。鍵を盗聴できる確率は約10のマイナス33乗となり,事実上盗聴が不可能であるという。

 開発した量子暗号鍵配布システムが実用化されれば,半導体レーザなどの一般的な光通信デバイスを使用した商用の光ファイバー・ネットワークシステムでも,安全な暗号鍵を高速に伝送できるようになる。今後は,システムの低雑音化を進め,鍵生成効率を向上させるとともに,ソフトウェア処理している部分について専用の演算装置を開発することでシステムの高速化を図っていく。