量子暗号通信装置の実験環境
量子暗号通信装置の実験環境
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 科学技術振興機構(JST)とNECは2007年1月17日,事実上盗聴が不可能な量子暗号通信をソフトウエア技術によって実現するシステムを開発したと発表した。ソフトウエア技術によって,単一光子や豊富な計算機資源といった量子暗号通信にとって理想的なハードウエア環境を必要とせずに安全性を確保できるという。企業の一般的なオフィス環境で実用されることを狙う。

 そもそも量子暗号通信は,光ファイバに光の構成単位の一つである光子を流すことで,情報の送信者と受信者の間で秘密を共有するというもの。不確定性原理と呼ぶ物理現象を根拠とする。目的は,データ暗号通信に使うための暗号鍵を2者間で他人に漏えいすることなく安全に共有すること。量子暗号通信によって安全に共有した暗号鍵を使って,既存のネットワーク上でデータ暗号化通信を実施する。目的は既存の鍵交換アルゴリズムと同じだが,計算機が高度化しても安全性が落ちないという特徴を持つ。

 今回用いたソフトウエア技術は,秘密増幅と呼ぶ過程において,光子の受信者が送信者から得た鍵の情報をどれだけ捨てればよいかを自動的に設定するといったもの。送信者が送った鍵の情報は,盗聴行為やノイズなどの要因によって情報量が減った状態で受信者に届くが,今回開発したソフトウエアにより,盗聴を検知した受信者は,盗聴された情報量の上限を見積もるとともに,どれだけの情報を捨てれば安全になるかを判別する。情報を捨てることで,盗聴者が持つ情報に最終的な鍵の情報が含まれる率が減るという。

 実験システムでは,20キロ・メートルの光ファイバで実際に情報を伝送し,盗聴者が得ることができる情報量を1ビットあたり128分の1以下と事実上盗聴が不可能な鍵を,毎秒2000ビット生成できたという。

 今回の技術と実験の詳細は,2007年1月23日に開催される「暗号と情報セキュリティシンポジウム(SCIS2007)」(主催:電子情報通信学会 情報セキュリティ研究専門委員会,場所:ハウステンボス)で発表する。