「新しいプロジェクトマネジャ(PM)教育法の有用性を確認できた。今後はより多くの企業に広めたい」――。慶応義塾大学環境情報学部の大岩元教授は、自身が推奨するPM教育法「コラボレイティブ・マネジメント型情報教育」についてこう語る。

 コラボレイティブ・マネジメント型情報教育は、座学では学びにくい、不測の事態に自らが考えて対処する力やコミュニケーション能力などを若手PMに身に付けさせるためのもの。実際に小規模プロジェクトのプロジェクトマネジメントを経験させることで、プロジェクト現場で起こる突発的な事象への即応力を養う。

 教育の場としたのは、慶応大校内の教授や職員が必要とするシステムの開発案件で、学生がプログラミングする。イベントの予定を立てる業務の支援や、CSV形式のデータを加工する際に不要なデータを削除するなど、数百人時規模のシステムが対象だ。企業から参加するPM一人と学生2~3人がチームを作り一つのプロジェクトに当たる。

 大岩教授によれば、個々のプロジェクト自体は「ソフト開発ができるとはいえ、学生は素人。企業からの参加者もPM未経験者が多く、ユーザーもシステム化の要求を出したことがない。ほとんど“おままごと”の世界」である。しかし、そこで顕在化するトラブルは、要件が決められずスケジュールが遅延したり、要員が急に入院したりといった不測の事態や、稼働後にユーザー要件を満たしていないことが発覚するなど、「大規模システムでもよく起こるもの」(大岩教授)だった。

 「プロジェクトは当初思い描いていたとおりにはなかなか進まない、ということに気付くことが、貴重な体験。その体験の有用性を知る企業からは、継続的に教育してほしいとの依頼が相次いでいる」(大岩教授)という。一般的なOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)よりも低いコストで実施できるほか、ここで失敗を犯しても自社の顧客には影響がないというリスクの低さも評価されている。

 この教育方法の検証は、文部科学省が主催する「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」の一環として、05年9月から本格的に取り組んできたもの。アトムシステム、CIJ、日本IBM、ネクストウェア、三菱スペース・ソフトウエアの5社が検証に参加した。なお成果の詳細については、07年2月23日に同校で開くシンポジウム「産学連携教育の新しい展開~企業若手IT技術者と学生が学ぶプロジェクトマネジメント~」のなかで発表する。