昨年(2006年)は「Web 2.0」の流行とともに,その代表と目される米Googleの評判がピークに達した年として記憶されるだろう。しかし,その影響力が増すに連れ,いわゆる「Google 八分」の言葉に見られるような警戒感や反感も高まっている。

 今や検索エンジンはインターネットへの玄関口であるばかりか,テレビや新聞に匹敵する強力なメディアとして認知され始めた。それだけに,検索エンジンがアメリカの一企業に牛耳られているという現状は,各国で危機感や対抗意識を生み出している。

 例えば日本では昨年7月,経済産業省が産学連携で国産検索エンジンを開発する「情報大航海プロジェクト」を開始した。その少し前には,フランスでも同様のプロジェクト「Quaero」(クエロ)が始まっている。いずれも政府主導でGoogleに対抗しようとする試みだ。これらが成功するためには何が必要か?それを考えるには,Googleが弱い地域に目を転じてみればいい。

韓国,中国では最強ではないGoogle


写真1 韓国NHN本社。ソウル市郊外に位置する京畿道城南市盆唐区にある。韓国でNHNは「大学生が就職したい会社1位」であるという
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 例えば韓国や中国などでは,以前から地元の検索エンジン/ポータル・サイト企業が優勢だ。

 韓国ではNHN社が運営する「Naver」(ネイバー,写真1)が,中国では「百度」(バイドゥ)がGoolgeを抑えて検索エンジンでシェア1位の座を獲得している。そして両社とも自国内での成功に勢いを得て,2007年には日本語版の検索サービスを開始する予定だ。

 実は,NHNは2000年に日本語版Naverの試験サービスを始めたが,それほど注目されることなく2005年に一旦サービスを終了している。今回は日本市場への2度目の挑戦となる。国内ではGoogleに打ち勝った企業でも,海外では苦戦を強いられるのだ。検索エンジンの市場競争では,各国独特の環境が大きく影響するようだ。韓国でGoogleを退けたNavarの事例を見ながら,それを探って行こう。

検索対象の不足をユーザー作成型コンテンツで補った


図1 韓国ポータル・サイトのシェア。ページ・ビューによる。データは2006年のもの。コリアン・クリック調べ
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 Naverは韓国の検索エンジン/ポータル・サイト市場で73%という圧倒的なシェアを誇る(図1)。これを運営するNHNにビデオ会議で取材する機会を得たので,Naverの強さの理由を聞いてみた。NHNで広報室長を務める蔡宣州(チェ・ソンジュ)氏からは次のような答えが返ってきた。

 「それは韓国独特の検索環境のせいでしょう。良質のウェブ文書が多い英語圏とは異なり,韓国では以前から,デジタル化されてウェブ上に出回っている韓国語の文書が不足していました。これを補うため韓国のポータル企業は,一方で検索エンジンを利用してウェブ文書を収集すると同時に,一方で検索を通じて求められそうなデータベースを独自に構築してきました。

 また,ブロードバンドの整備が速かった韓国では,ユーザーが(音楽や映像など)多くの情報をインターネットから取得する利用形態が,どの国よりも発達しました。こうした企業努力とユーザーの反応がシナジーを引き起こし,データベース化された『UCC』(User Created Contents,ユーザー作成型コンテンツ*)を韓国の検索エンジンで入手するという現在のモデルが出来上がったのです」

(*)UCCはCGM(Consumer Generated Media)と同義。

 上の意見には若干の補足説明が必要だろう。「検索を通じて求められそうなデータベース」とは,ユーザーからさまざまな情報を引き出して作ったUCCデータベースを指す。例えば「Daum」(ダウム)など韓国の主要ポータル・サイトは,90年代後半からサイバー・カフェのようなコミュニティ・サービスを提供し,「趣味」や「同窓会」などのカテゴリーごとにユーザーを集め,UCCの成長を促した。

 NHNも「Naver知識iN」というサービスを展開。これはいわゆる「知識検索」と総称されるサービスの一つで,ユーザー同士が質疑応答することで無数の質問とその回答が巨大な知識データベースになるもの。優れた回答にはポイントが与えられ,それは次回自ら質問する権利として行使できる。こうしたインセンティブの結果,データベースには今や4000万以上の質疑応答が蓄えられ,大抵の質問には満足のゆく回答が用意されている。

 以上のような韓国企業の努力と工夫によって,彼らのポータル・サイトはGoogleなどを寄せ付けない人気と競争力を手に入れた。これは確かに説得力のある説明だ。

独自データベースの囲い込みを批判する声も(次ページへつづく)