三菱電機と北海道大学は,量子暗号通信の仕組みとして,従来の技術よりも盗聴に強い量子暗号通信装置を共同開発した。両者が1月15日に,装置の共同開発と80kmの距離をもつ光ファイバ・ネットワークでの検証実験に成功したことを明らかにした。今後は,開発した技術を基に装置の小型化に取り組み,5年後を目標に実用化を目指す。

 量子暗号とは,数学理論ではなく物理現象に安全性の根拠を持つ暗号化方式。量子力学の不確定性原理を利用する。光ファイバ網に光子を送信して情報を流す。送信した情報(光子)を第三者が盗聴すると,盗聴した情報そのものが変化するため,解読が不可能になると同時に盗聴された事実が分かる。量子暗号は主に,通信相手との間で暗号鍵を共有する際に利用する。

 一方で,既存の暗号の多くは,解読に必要な“計算量”という数学理論を拠り所とする。解読に必要な時間が天文学的になると,事実上安全になる理屈である。ところが,量子コンピュータが実用化されると,こうした既存の暗号は意味を持たなくなる。量子コンピュータはこうした暗号を短時間で解読してしまうからだ。

 今回,三菱電機と北海道大学が共同開発した装置は,理想的な光子を発生させることで,量子暗号が持つ本来の安全性を確保する仕組みを備える。これまでの量子暗号装置は光源としてパルス・レーザーを弱めた擬似的な光子源を用いており,同じ情報を運ぶ光子が同時に2個以上発生する確率が高かった。そのため重複する光子のうちの1個を盗聴することで暗号を解読される恐れがあった。今回新たに開発した仕組みでは,同時に2個以上の光子が発生する確率を1万分の1以下に抑えたとしている。