米アドビ システムズのアヌープ・ムラーカ モバイル&デバイス部担当ディレクター
米アドビ システムズのアヌープ・ムラーカ モバイル&デバイス部担当ディレクター
[画像のクリックで拡大表示]

 アニメーション動画などマルチメディア・コンテンツのプラットフォーム環境として知られるアドビ システムズの「Flash」。携帯電話や組み込み機器などに向けた「Flash Lite」は,2003年にNTTドコモの505iシリーズに登載されたのを皮切りに,搭載機種を広げている。KDDI(au)やソフトバンクモバイルはこの秋に,最新版である「Flash Lite 2.0」搭載の携帯電話を出荷した。Flash Liteの現状と今後の方向性について,米アドビ システムズのアヌープ・ムラーカ モバイル&デバイス部担当ディレクターに聞いた。(聞き手は堀越 功=日経コミュニケーション

――Flash Liteを搭載する端末数は。

 2006年6月の段階で,Flash Liteを搭載する携帯電話は世界で150機種を超えた。デジタルテレビなど携帯電話以外の端末も含めると,300機種以上になる。台数にすれば実に1億5000万台だ。NTTドコモの505iシリーズがFlash Liteを搭載した初めての端末だったが,わずか3年でこれだけ市場が広がったという事実は,驚くべきことだと思っている。

 Flash Liteの市場をリードしているのは,やはり日本だ。しかし他の国でも劇的に搭載端末が増え始めている。例えば韓国では,過去1年で多くの携帯電話にFlash Liteが搭載された。フィンランドのノキアもFlash Liteの採用に積極的など,世界で普及が進んでいる。

――携帯電話以外の機器では,どのような機器にFlash Liteが搭載されているのか。

 DVDプレーヤーやデジタルテレビ,携帯型メディア・プレーヤー,ゲーム端末,カーナビなどに既にFlash Liteが搭載されている。我々アドビのモバイル&デバイス部門のミッションは非常に簡単だ。Flashの持つ魅力を,どこにいてもいつでも,あらゆるデバイスで提供することだ。例えば,あなたがオフィスに戻る時,その間にいくつものスクリーン(画面)を見るだろう。例えば駅の表示板,ビル,エレベータの表示などだ。これらがすべてFlash Liteのターゲットとなる。

 最初に携帯電話にフォーカスしたのは,ビジネス上は当然だ。携帯電話の全世界での年間出荷台数は約8億台。テレビ関連の製品は年間で3億台から4億台であり,すべての家電をまとめたとしても携帯電話の台数には追いつかないからだ。

――携帯電話に搭載したFlash Liteは,世界各国ではどのように利用されているのか。

 日本と同様に,Webサイトやゲーム,マルチメディア・ファイルなど,ダウンロード可能なコンテンツを再生するために利用されている。

 ただ最近になって,他の目的に利用されるケースも増えている。例えば携帯電話のユーザー・インタフェースだ。韓国サムスン電子が出荷したある機種では,ユーザー・インタフェースをすべてFlashで作成し,携帯電話を持って各国を移動したときに自動的にインタフェースが変わる仕組みを搭載している。例えば,ロンドンに移動するとビッグ・ベンが,パリでは凱旋門,ニューヨークでは自由の女神が画面に表示されるといった具合だ。

――携帯電話向けのゲーム・アプリケーションは,JavaやBREWなどのプラットフォーム上でも浸透している。Flashの強みは。

 コストを抑えられることだ。Flashを使うことで開発にかかるコストを他の開発環境と比べて大きく低減できる。アドビは多くのオーサリング・ツールを用意しており,あらゆるOS,デバイスに対してFlashコンテンツを即座に移植できる。

――モバイル市場に向けた今後の戦略は。

 より多くのデバイスにFlash Liteを提供していきたい。例えば携帯電話のエントリー機種などだ。つい数カ月前のことだが,新しいレンダリング技術の知的財産権をあるベクターから購入した。この技術を利用することで,ハードウエアのメモリーや処理能力が,これまで以上に小さく済ませることができる。将来のFlash Liteではこの技術を取り入れていく。我々の調査によると,携帯電話のハードウエアの能力の進化は,日本ではどんどん伸びているが,海外では伸びが緩やかだった。だからこそ,このような新技術を取り入れる必要があった。

 もう一つの戦略の柱は,世界の携帯電話事業者にニーズが高いFlashアプリケーションをアドビ側で用意していくことだ。例えば携帯電話向けのFlash動画を提供する「モバイルビデオ」,待ち受け画面に情報などをプッシュ型配信する「アクティブホームスクリーン」などに力を入れる。

――Flash動画のニーズは高そうだが。

 携帯電話でFlash動画をサポートしてほしいというニーズは高い。Webの世界では,YouTubeなどFlash動画を使ったサービスが人気を集めている。このようなFlashの魅力をモバイルにも移植できないかと開発を続けている。

 ただWebサービスをモバイル向けに移植するには,多少の工夫が必要だと考えている。YouTubeは友達からリンクを教えてもらい,見ることがほとんどだろう。携帯電話では,検索機能や動画紹介ページなど動画にアクセスする手段を,別に整える必要があると思う。

――携帯電話の通信機能はHSDPA(high speed downlink packet access)サービスの開始などで,より高速な環境に移行しつつある。こうした環境の変化はモバイル向けのFlashの普及を後押しすると考えるか。

 間違いなくFlashの普及を後押しするだろう。ただFlashは,もともとダイヤルアップ接続向けに開発されたことも忘れてはならない。効率良くコンテンツを転送することを重視してきたという哲学がある。Webでもモバイルでも,それは変わらない。