みずほ証券の誤発注を巡る裁判が2006年12月15日に始まったことを受け、情報システム学会(ISSJ、北城恪太郎会長)が提言を同会ホームページに掲載している。証券会社、東京証券取引所(東証)、システム開発会社の3者それぞれが十分な説明責任を果たしていないことを指摘するとともに、そこから再発防止に向けたユーザーとシステム開発会社のそれぞれが果たすべき役割を考える直す必要があるとしている。

 提言をまとめたのは、ISSJの東証問題検討プロジェクト(上野南海男代表)。8月18日にみずほ証券が東証に、404億円の損失負担を求める催告書を送付したことを受け、05年末からの東証における一連のシステム障害の本質的課題を探ろうとしていた学会メンバーが集まり、情報収集と議論を繰り返してきた。

 同プロジェクトが最も重視するのは、「専門家の倫理において最も重要な規範の一つ」である説明責任を十分に果たしていない点。裁判が始まったことで、収束後の明確な説明を期待するにとどまるものの、日本国内で「指導的立場にある企業や組織」である今回の当事者が、倫理的模範を示さなかったことは、再発防止はもとより、IT業界のアイデンティティ確立にも損失であると危惧する。

 提言が、説明責任を強調する理由は、誤発注当日の対応の中に改善へのヒントが隠されているとみるからだ。具体的には、(1)みずほ証券での誤発注が2分後にアシスタントにより発見されたことは個人的な資質なのか業務プロセスなのか、(2)システム開発会社のプロジェクトマネジメントにおいて、プロダクト・プロセス管理と品質管理はどのように行われていたのか、(3)東証側で誤入力を2分以内に発見できた管理体制と機能は、どのような業務プロセスに基づいていたのか、などである。こうした疑問が解消されれば、今後多くの企業が築くべき業務システムの基盤になるとの期待が大きい。

 検討プロジェクトは、みずほの誤発注問題は、数多くの問題が重なって発生しているため、それら問題のいくつかが事前に改善されていれば損害は大幅に改善された可能性があるとしたうえで、それだけ対策が多角的にあれば、問題解決も現実的に可能だと指摘する。

 東証問題は、「人間とコンピュータがかかわる今日の情報システム」の存在価値を問い直すには格好のベンチマークだともいえる。ISSJの東証問題検討プロジェクトの提言を参考に、情報システムの企画・開発・運用のあり方について熟考してみる価値はありそうだ。