右が新製品のCF-30。従来機よりディスプレイの輝度を大幅に向上させた
右が新製品のCF-30。従来機よりディスプレイの輝度を大幅に向上させた
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10.4型液晶を備えたCF-19。小型きょう体だがCore Duoを搭載する
10.4型液晶を備えたCF-19。小型きょう体だがCore Duoを搭載する
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動作中のCF-30に水をかけるデモ
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動作中のCF-30を落下させるデモ
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堅牢ノートの世界市場における累計出荷台数の推移。松下の世界シェアが徐々に上がっているという
堅牢ノートの世界市場における累計出荷台数の推移。松下の世界シェアが徐々に上がっているという
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松下電器産業の高木氏。「6割を超える世界シェアを達成できたのは、さまざまなユーザー企業から意見をいただき育てられてきたからだ」と語る
松下電器産業の高木氏。「6割を超える世界シェアを達成できたのは、さまざまなユーザー企業から意見をいただき育てられてきたからだ」と語る
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 松下電器産業は2006年12月20日、耐衝撃性や防滴性などを高めた業務用ノートパソコン「TOUGHBOOK」の新機種「CF-30」「CF-19」を発表した。デュアルコアCPUを搭載するなど処理性能を従来機より高めたほか、屋外で使用するユーザーに向けて外光下でも視認性の高い液晶ディスプレイを搭載するなどの改良を施した。CF-30は2007年2月1日、CF-19は2月26日に受注を始める。価格は個別見積もりだが、CF-30は45万円前後、CF-19は30万~35万円程度の見込み(発表資料)。

 CF-30は13.3型液晶ディスプレイを備えた、いわゆるオールインワン型機種。CF-19は10.4型液晶ディスプレイを採用した小ぶりなきょう体で、ディスプレイ部に2軸ヒンジを設けており、画面を外向きにして畳んで使えるのが特徴だ。重さは順に3.8kg、2.25kg。それぞれ従来機「CF-29」「CF-18」の後継となる。いずれも、90cmの高さからコンクリートや合板の床に落としても壊れない耐衝撃性、日本工業規格(JIS)で定められた「IP54」等級の水準を満たす防塵防滴性能などを特徴とする。

密閉きょう体へのCore Duo搭載を実現、決め手は温度センサー

 従来機からの最大の進化点は、バッテリー駆動時間を従来機と同じ8時間としながら、CPUにCore Duoを搭載したことだ。CF-30はCore Duo L2400(1.66GHz)、CF-19はCore Duo U2400(1.06GHz)を採用している。

 一般にデュアルコアCPUは、従来のシングルコアCPUより消費電力が大きく、発熱量も多い。このためデュアルコアCPUをパソコンに搭載するには、きょう体の熱設計の見直しが必要になる。例えばヒートシンクによる熱伝導、ファンによる空冷、冷却液による水冷などの手段で、CPUから発生させる熱を逃がす設計が欠かせない。しかし堅牢ノートパソコンでは、きょう体内部に水が浸入しないよう密閉構造を採っており、このため一般のノートパソコンより熱設計が困難である。12月5日に発表されたNECの堅牢ノートパソコン「ShieldPRO FC-N21S」では、開発過程でCore Duoの搭載も検討されたものの、発熱量に対し十分な放熱性を確保できないとの理由で、結局シングルコアCPUのCore Soloを採用している(関連記事)。

 今回の2製品のうち、きょう体の表面積が小さいCF-19はShieldPROと同様、デュアルコアCPUの搭載に際し熱設計の課題に直面した。これに対し松下電器産業は米インテルと共同で、きょう体内部の温度管理をきめ細かくする技術を開発し、これを実装することにより乗り切った。

 一般にCPUは温度上昇を検出すると、動作周波数を下げることで温度を低下させるよう設計されている。この温度検出機能は、ノースブリッジ(MCH:memory controller hub)に付けられたセンサーが担っている。これに対しCF-19では、ノースブリッジだけでなくメモリーモジュールやパームレストなど、きょう体内部の複数個所に温度センサーを配置した。これにより、従来はノースブリッジが高温になったら無条件で動作周波数を落としていたところを、例えばノースブリッジの温度センサーが高温になっても、メモリーモジュールの動作に支障をきたしたり、パームレストが触れないほど熱くなったりしない限り、動作周波数を下げずに高速駆動を継続する。

 「最近は、工事現場で3次元グラフィックスによる図面を参照したいといったユーザー企業からの要望もある」(松下電器産業 ITプロダクツ事業部 テクノロジーセンター ハード設計第二チーム 主任技師の西松英雄氏)といい、同社では高性能のCPUをいち早く採用することを重要な課題と位置付けていた。CF-19は今後3年程度販売する予定としており、将来的なパソコンの性能向上も意識してデュアルコアCPUの搭載にこだわったと同社では説明している。

蛍光管2灯搭載で輝度向上、「白色LEDは高温環境にまだ弱い」

 もう1つの大きな改良点が、屋外での使用時に画面の視認性を高めるための液晶ディスプレイの工夫である。

 きょう体の大きいCF-30では、液晶パネル下部に蛍光管バックライトを2灯搭載した。従来機のCF-29も500カンデラ/平方メートル(cd/m2)と高輝度だったが、これを一挙に1000cd/m2へ引き上げた。これにより、屋外の工事現場などで直射日光が当たるような環境下でも、ディスプレイを従来機より鮮明に映し出せる。なお、屋内作業時に1000cd/m2の高輝度画面は目への負担が大きいため、キーボードに割り当てた輝度調整ボタンを1回押すことで、500cd/m2と1000cd/m2を簡単に切り替えられるようにした。

 ノートパソコン向け液晶ディスプレイでは、バックライトに白色LEDを用いた製品も徐々に増えているが、今回の製品では蛍光管バックライトを採用した。その理由について西松氏は、「白色LEDは高温環境下で劣化が早いという課題があり、現段階では十分に使える状況にはなっていない」と説明する。これとは逆に低温環境では、白色LEDより蛍光管バックライトの方が暗くなるという性質があるが、これについてはバックライトにヒーターを付けることで解決している。もっとも、「白色LEDの性能向上が進めば、今後の製品でLEDバックライトを採用することも考えられる」(西松氏)としている。

 なお、ヒーターはバックライトのほか内蔵HDDにも搭載しており、これにより低温環境でも正常にHDDが駆動し、パソコンを使用できるようにしている。同社では-20℃および60℃の環境下で500時間の連続駆動試験を実施し、正常に動作することを確認している。

 CF-19はきょう体が小さく、蛍光管バックライトを2灯内蔵することが困難なため、円偏光フィルムを液晶パネルに張り合わせ、液晶ディスプレイに映り込んだ外光の反射を低減させる仕組みを採っている。偏光フィルムの追加により輝度は若干下がり、従来機であるCF-18の500cd/m2に対しCF-19では460cd/m2となった。

「大手でないからこそ、きめ細かいカスタマイズが可能」

 堅牢ノートパソコンの市場規模は決して大きくない。松下電器産業の推計によると、堅牢ノートパソコン市場における同社の世界シェアは65%と圧倒的な強さを誇るが、その最大手の松下でさえ、今回の2製品の生産台数は合計で年間3万台に過ぎない。ちなみに2005年度のノートパソコン国内出荷台数は708万台、モバイルノート型に限っても183万台である。

 もっとも、規模が小さく特殊な市場であることが、同社にとってはプラスに働いているようだ。「堅牢ノートの案件では、標準構成のまま購入してくれるユーザー企業はほとんど存在せず、案件ごとに細かい要望を受け、それを満たすべくカスタマイズをする。そのつど開発部門が要求仕様を検討し、動作検証をした上で、数十台~数百台といった比較的少量のロットで生産し出荷している。一般のノートパソコンのように、大手メーカーが大量生産で製造原価を下げたり、営業部隊を組んで外回りさせたりするだけでは堅牢ノートは売れない。大手パソコンメーカーがなかなか参入できないのは、そうした背景があるからだ」(松下電器産業 パナソニックAVCネットワークス社 システム事業グループ ITプロダクツ事業部長の高木俊幸氏)。スタンダードノート市場とは一線を画し、1996年から10年間かけてモバイルノートと堅牢ノートという独自分野を切り開いてきた、同社の自信が垣間見える。

 今回の新製品でも、きめ細かなカスタマイズが可能なことを売りの1つとする。DVDドライブを外して代わりに大容量バッテリーパックを装着できるほか、非接触型ICカードスロット、指紋認証モジュール、Bluetoothモジュール、GPSユニット、車載用アダプターなどのオプション装着を可能とする。無停止で駆動し続けるような用途に向け、内蔵HDDの代わりにフラッシュメモリーを搭載した製品なども出荷可能とする。NECのShieldPROが打ち出した、IP54等級を維持したまま接続できるケーブルやLinuxのプリインストールについても、「話があれば個別に対応していく。当社ではまだShieldPROを入手していないが、同製品から学ぶべきところがあれば素直に学んでいき、TOUGHBOOKに採り入れていきたい」(高木氏)との姿勢を示した。