日経WinPCは、2006年12月5日に米AMDが発表したデュアルコアCPU「Athlon 64 X2」の新型を店頭販売に先立って入手。システム全体の消費電力を測定し、従来品やライバルとなる米インテルの「Core 2 Duo」と比較した。

 AMDが5日に発表したのは、製造プロセスを従来の90nmから65nmに縮小したバージョン。「Brisbane(ブリスベン)」の開発コード名で呼ばれていた製品で、TDP(Thermal Design Power、実使用時の最大消費電力)を65Wに抑えた「低消費電力版(Energy Efficient)」としてラインアップする。

 既存の90nmプロセスの製品にも低消費電力版は存在していたが、動作周波数の低いモデルだけだった。65nmプロセスの導入により、上位モデルにも低消費電力版が広がった(表1)。一般にパソコン向けのCPUではTDPが小さいと通常利用時の消費電力も低い傾向にある。消費電力が下がれば、発熱が減るため、ファンの騒音も抑えやすい。

【AMDが発表した65nm版のAthlon 64 X2】
モデルナンバー 5000+ 4800+ 4400+ 4000+
動作周波数 2.6GHz 2.5GHz 2.3GHz 2.1GHz
価格 3万6556円 3万2913円 2万5990円 2万525円
OPN(発注型名) ADO5000
IAA5DD
ADO4800
IAA5DD
ADO4400
IAA5DD
ADO4000
IAA5DD
製造プロセス 65nm
1次キャッシュ (64KB+64KB)×2
2次キャッシュ 512KB×2
対応メモリー デュアルDDR2-800
ステッピング G1
動作電圧 1.25V/1.35V
※価格は1000個発注時のリテール版

 65nm版のAthlon 64 X2は、ブランド名は変わらず、90nm版の同クラスの製品と同じモデルナンバーが与えられている。ただし、従来の90nm版の4800+、4400+、4000+はコアごとに2次キャッシュを1MB持っていたのに対し、65nm版では各コア512KBへと削減。その分動作周波数を100MHz引き上げた。CPUに供給する基準動作周波数(ベースクロック)は従来通り200MHzなので、65nm版では0.5刻みの倍率が導入されたことになる(従来は200MHzの整数倍だった)。そのほかの性能に関する仕様は従来製品と同じ。内部的な設計も変わっていないという。

 今回の65nm版の投入は、性能強化ではなく消費電力の削減を目的としたものだ。そのため、今回はシステム全体の消費電力を測定した。テストに使用した機材は下の通り(表2)。AMD製CPU用のマザーボードは、店頭で人気の高い製品として、米エヌビディアのハイエンドチップセット「nForce 590 SLI」を搭載した台湾アスーステックコンピューターの「M2N32-SLI DELUXE」を使用した。インテル製CPU用は、「D975XBXLKR」(米インテル製)を使った。インテルプラットフォームでパワーユーザーに人気のある「Intel 975X」チップセットを採用した製品だ。

【電力測定に使用したパーツ】
  AMD製CPU インテル製CPU
マザーボード M2N32-SLI DELUXE
(nForce 590 SLI搭載、台湾アスーステックコンピューター製)
D975XBXLKR
(Intel 975X搭載、米インテル製)
メモリー DDR2-667 512MB×2(計1GB)
HDD DiamondMax 10 120GB
(Serial ATA接続、米マックストア製)
グラフィックスボード GeForce 6600搭載ボード
電源ユニット 鎌力 500W(サイズ)
OS Windows XP Professional Service Pack 2

 CPUは、65nm版のAthlon 64 X2 5000+(TDP65W)、同4800+(同65W)のほか、比較のため90nm版のAthlon 64 X2 5000+(同89W)と同3800+(同65W)を調べた。さらにCore 2 Duo E6300、同E6700でもテストした。Athlon 64 X2は「Cool'n'Quiet」、Core 2 Duoは「拡張版SpeedStep」という省電力機能を有効にしている。

【65nm版のAthlon 64 X2 5000+】
図1

 システム全体の消費電力は、日置電機の「パワーハイテスタ 3332」で計測した。その結果が下のグラフだ。グラフ中の「アイドル時」はWindows XPで何も操作していない状態。「負荷時」は、米フューチャーマークが公開しているベンチマークソフト「PCMark05」を実行している状態だ。PCMark05は、市販アプリケーションなどで使われている処理をベースに性能を調べるソフトで、今回はシステム消費電力が最も高くなる4スレッド同時実行のテストを実施した。

【システム消費電力の測定結果】
図2
濃色はアイドル時、淡色は負荷時。単位はW(ワット) 

 製造プロセス以外の仕様がほとんど同じAthlon 64 X2 5000+を見ると、65nm版の優位性が分かる。アイドル時はわずかだが、負荷時はシステム全体で17Wほど下がっているからだ。Athlon 64 X2 4800+は、5000+と比べて動作周波数が低い分、負荷時のシステム消費電力も順当に下がっている。

図3
AMD製ユーティリティーによる5000+のアイドル状態(左)と負荷状態(右)

 一方、Core 2 Duoはさらに低い。特に負荷時の低さが際立っている。日経WinPCのテストでは、Core 2 Duo E6700はほとんどの処理でAthlon 64 X2 5000+を上回る性能を示していた。Core 2 Duoの電力当たりの性能は極めて高いと言える。ただ、nForce 590 SLIを搭載したマザーボードは、一般に消費電力が高い傾向にある。日経WinPCが過去に調べたところ、グラフィックス機能を内蔵した、低価格機向けチップセットを搭載したマザーボードだと、たとえグラフィックスボードを取り付けていても、nForce 590 SLI搭載マザーボードのシステムより、15~20Wほど消費電力が下がる。

 65nmプロセスへの移行により、Athlon 64 X2は確かに消費電力を下げている。とりわけ負荷時の電力削減ははっきりとしたメリットがある。一方、アイドル時は従来の90nm版とさほど変わらない。AMD自身も「Cool'n'Quietを使ったアイドル時の電力削減は今後さらに効率化する」としている。全体としては、少なくとも今回テストした65nmプロセスの初期製品の電力当たりの性能はCore 2シリーズに追いついていない、という印象だ。今回は、時間の都合もあり、限られた構成でしか電力を調べられなかった。消費電力に関するより詳細な分析は、日経WinPC本誌で今後取り上げる予定だ。