レノボ・ジャパン 研究・開発担当 内藤在正 副社長
レノボ・ジャパン 研究・開発担当 内藤在正 副社長
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回転式のタッチパネルを搭載した「ThinkPad X60 Tablet」
回転式のタッチパネルを搭載した「ThinkPad X60 Tablet」
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 レノボ・ジャパンは2006年12月5日、タブレットPC「ThinkPad X60 Tablet」を発表した。電磁誘導と感圧式と2種類のタッチパネル用センサーを組み合わせて使い勝手を高めながら、画面の表示品質を損なわない設計とした。質実剛健を売りとするThinkPadで、タブレット機能を強化する狙いはどこにあるのか。レノボのノート開発を統括する内藤在正 副社長に新製品のポイントと今後の方針を聞いた。

■堅牢性に重きを置くThinkPadとタブレットPCとは意外な組み合わせにも見えます。

 キーボードはタイプライターの時代から親しまれている入力デバイスですが、書き込むという動作は人間にとって一番自然なものです。マウスやキーボードではできなかった表現が可能となり、自分の頭の中を具現化して見せることができるようになるのです。潜在的な需要は大きいと考えています。

 以前からペン入力のパソコンは存在していましたが、現在の技術で得られるメリットは以前と大きく違います。例えば昔、「ThinkPad 360P」(1994年発売)というペン入力のノートがありましたが、画面が小さく、ペンで書ける部分が少なかった。また、当時のノートパソコンは本体サイズが大きかった。タブレットという言葉から連想するイメージと、当時の技術で提供できたものに隔たりがあったのです。技術が煮詰まっていない時期に投入すると、ユーザーががっかりして、そのコンセプトに関する拒否感が生まれかねません。現在では、ユーザーが期待する製品に近いものが提供できるようになりました。

■タブレットPCの利用シーンとはどのようなものですか。

 従来モデルのThinkPad X41 Tablet(2005年7月発売)を投入した際は、出庫処理など特定業務に向けた需要があると見込んでいたのですが、実は普通にパソコンを使っている方からの要望が強かったのです。

 例えば、自分の文書にちょっとした図を書き込むことで、資料をもっと分かりやすくできます。ほかにも、プレゼンテーションの最中に手書きの図を書き込むこともできる。現状でも、プレゼンテーションや会議で話をしながら、横のホワイトボードなどに図を描いて説明することがあります。今までと違うことをやるのではなく、タブレットPC上でより簡便に実現できるところにユーザーが価値を見出しているようです。

 帳面のように使えるタブレットPCは、昔からの人間の暮らしに近い感覚で利用できる機器といえます。会議中にノートパソコンでメモを取ったら、キーの音がうるさいと怒られるかもしれません。取引先の相手に会う場合、ノートパソコンを目の前に置いて話をしたら、失礼と受け取られかねません。といっても、すべての情報が入ったパソコンを閉じてしまうと不便に感じることもあります。その点、タブレットPCで会議のメモをペンで記入する分には違和感は少ないでしょう。商談相手に画面を見せながら話をすることも自然にできます。

■電磁誘導と感圧式を組み合わせたタッチパネルはどのように開発しましたか。

 電磁誘導式と感圧式の融合は、弊社の製品企画部門から上がってきた要望を具体化したものです。従来製品は電磁誘導式のみでしたが、単にボタンを押すだけなら、専用ペンをいちいち取り出すのは少々面倒です。それを指でポンと押せるようになったのです。タッチパネルは、タブレット製品では業界トップクラスの企業であるワコムに、こういうタッチパネルを作りたいと要望を出し、カスタマイズしてもらいました。ペンを持ったときに、手のひらが触れてもカーソルが動かないようにするなど、自然な感覚で使えるインタフェースに仕上げてもらいました。

■ThinkPadの特徴といえば「堅牢性」。最近ではほかのメーカーから「堅牢性」に加えて「軽さ」を重視したノートが登場してきました。

 ThinkPadに持たせている堅牢性は業界のスタンダードではなく独自規格です。他社製品の堅牢性と同じである保証はありません。弊社では、実際にパソコンに起きる現象を解析して、これを事前に検証するには何をしたらいいのかを検討し、テストの基準や規格を積み上げてきました。

 軽くしなくてもよいと思っているわけではありません。軽くするのはよいのですが、今よりも軽くして、ThinkPadの堅牢性を信頼していただいたユーザーが逆に落胆してしまうレベルになると思ったら、そこには踏み込みません。ユーザーが何も我慢する必要のない水準を保ったうえで、軽さを追求しているのです。これ以上軽くするとなれば、何かが失われてしまうのです。

 製品を通して、顧客の期待に応えられることをお知らせする。これがブランドにおいて何より大切です。ThinkPadというブランドはこういうものなんだと。それは1日ではなく、10年以上かけて成し遂げたものです。期待に応えられないものを出したら、そのブランドはその日で終わり。そこは絶対守りたいのです。ThinkPadは変わりませんといい続けていますが、その期待を裏切りませんという意味です。

■市場を見ると、パソコンの低価格化が進んでいます。

 ThinkPadでは、どんどん安くしようという製品作りはしていません。パソコンとは、創造するすべての人に向けたツールです。パソコンは思考を助けるための道具なのです。パソコンの処理が遅ければ、ユーザーはただ砂時計を見ているだけ。その間、何も考えていないかもしれません。それでは創造性が損なわれてしまいます。パソコンは自分にとって役に立つ道具であるべきです。そんな大事なものであるのに、値段だけ安い製品を提供したいとは思わない。ThinkPadはそういう製品ではありません。皆さんが投資してもらったことに十分応えられる製品をお届けしたいのです。

 一方、弊社には「Lenovo 3000」という別のシリーズがあり、こちらはお求めやすい製品というのがコンセプト。ThinkPadとは違う市場を狙っています。ThinkPadは変わらないが、Lenovo 3000では2年というスパンで次のことを考えていきます。ただ、コンセプトは崩しません。例えば、いろいろな機能を搭載した高価な製品という方向性にはなりません。

 もしそういう製品を作るなら、それはまた別のブランドを作ります。レノボは自分たちの手がけていない分野に対して、何ができるのかを考えていける会社です。日々考えなければいけないことが増えて、楽しく仕事をしています。IBM時代のブランドはThinkPadのみでした。そのため、市場を拡大しようとすると、ThinkPadを変えざるを得なかった。レノボになってからは、ThinkPadはこう、Lenovo 3000はこう、必要があればまた新しいブランドを作ればよいという柔軟な考え方ができます。逆にいうとThinkPadはThinkPadに特化できます。そのため、ThinkPatは以前よりも、もっとThinkPadらしくなるといっているのです。新しいブランドはまだ検討段階です。

■Windows Vista時代に向けて、レノボ製品はどう変わっていくのでしょうか。

 第3世代のThinkPad(60番台の型番を付けた製品)では、Vistaの機能をフルに引き出せるハードウエアを提供するという点を大きな目的としてきました。既にハードウエアとしては、Vistaに対応できる性能を備えています。これから進化するのはソフトウエア。例えば各種ツールを収めた「ThinkVantage」というソフトウエアが付属していますが、Vistaの基本機能の中に従来のThinkVantageで提供していた機能が入ってきます。現在、Vistaという基盤の上にもっときめ細かいサービスができるソフトウエアになるよう、かなりの部分を書き直しています。Vistaだからこそ実現できる、次のThinkVantageに持っていきたいと考えています。