日本郵政公社の吉本和彦 理事常務執行役員
日本郵政公社の吉本和彦 理事常務執行役員
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 「CIO(最高情報責任者)の役割は、ITを駆使して経営戦略の実現に貢献すること。ITに関する現状や目標を可視化して経営層に伝えるのも欠かせない。だがそれだけでは不十分。システム障害などの際に、臨機応変に陣頭指揮を執ることも重要な任務だ」。日本郵政公社の吉本和彦 理事常務執行役員(写真)は11月29日、ガートナージャパンが東京・台場で開催している「Gartner Symposium/ITxpo 2006」のインタビューで、こう述べた。

 みずほ銀行の常務を経て2006年4月に日本郵政公社に転じた吉本理事は、「これまで、システムに関するいくつかの大トラブルを経験してきた」。最近では、みずほ銀行が2002年4月の発足時に引き起こしたシステム障害。2001年9月11日の米国同時多発テロ、1995年1月17日の阪神大震災などの際にも、システム責任者を務めていた。

 なかでも印象深いのは、阪神大震災でのシステム対応だったという。当日、富士銀行(当時)の支店7カ所が被災した。ただ、翌日にはATM(現金自動預け払い機)を動かせる状態だった。「システム面の災害対策が完璧だった」(吉本理事)からだ。ネットワークを二重化するだけでなく、回線事業者を分けていた。支店には自家発電装置も用意してあった。

 だが、被災現場はそれどころではなかった。支店長をはじめ支店の職員は、出社して仕事をするよりも、倒壊した家屋に埋もれた人の救助などを優先すべき状況だった。夜になると停電で街中が真っ暗。そうした中、銀行がATMを稼働させても意味がない。現地の職員から収集した情報を基に経営層と相談した上で、吉本理事は「システムを動かさない」という判断を下したという。

 有事への臨機応変な対応に加え、吉本理事は日常業務においてCIOに必要な役割を五つ挙げた。ITに関する目標の可視化、経営決断に沿ったIT化の実現、顧客満足の最大化に向けた業務プロセスの構築、経営優先度の高いプロジェクトへのフォーカス、業務効率向上のための標準化やインフラ共通化がそれだ。

 CIOがITベンダーに期待することとしては、「自社製品にこだわらず高品質なシステムを構築してもらいたい。目先の利益を優先するのでなく、長期的な信頼関係を前提にリスクを互いに共有する姿勢を見せてほしい」などと話した。

 吉本理事は、貯金・保険・郵便以外の管理系システムやネットワークを全社横断的に管轄する「コーポレートIT部門」の責任者。加えて、最近では特に郵便関連のシステム強化に力を注いでいる。