米マイクロソフトWindows & Windows Live エンジニアリンググループ担当上級副社長 スティーブン・シノフスキー氏(撮影:村田和聡)
米マイクロソフトWindows & Windows Live エンジニアリンググループ担当上級副社長 スティーブン・シノフスキー氏(撮影:村田和聡)
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 Windows Vistaとthe 2007 Office systemの発売が目前に迫っている。OSとOfficeという2大製品がマイクロソフトから同時に登場するのは、およそ10年ぶりのことだ。米マイクロソフトで、Windows & Windows Liveエンジニアリング担当上級副社長を務めるスティーブン・シノフスキー氏に、両製品の開発の裏側を聞いた。

■当初の予定より開発に時間がかかったのはなぜですか。

 素晴らしい製品の開発には、時間がかかります。複雑な製品については、特にそうです。

 我々は、Windows Vista(以下Vista)およびthe 2007 Office system(以下Office 2007)の開発において、大変な努力をしてきました。開発の途中でさまざまな変更を加え、製品を改良してきました。同時に、Windows XP Service Pack2やタブレットPC、Windows Server2003など、多くのソフトを提供してきました。そのぶん、Vistaの完成までに予定よりも時間がかかりました。

 我々は、この経験を通じてさまざまなことを学びました。今後は、みなさんをお待たせすることのないように、努力したいと思います。ただ、信頼性、品質、堅牢性のどれをとっても、VistaやOffice2007は、最良の製品だと考えています。時間はかかったかもしれませんが、いろいろな意味で素晴らしい製品です。

■WinFS、NGSCBなど、Vistaの目玉機能のいくつかが消えてしまいました。

 内部の実装技術は変わりましたが、ユーザーにとっての利用シナリオは、当初と同じものを実現しているのです。例えばVistaにはスタートボタンから利用できる検索機能がありますが、これはWinFSで想定していたものと同じです。

 新ファイルシステムとしての導入を検討していたWinFSは、とても挑戦的な構想でした。ただ性能や互換性などさまざまな面で、トレードオフを考慮しました。さらに情報検索においてユーザーが最も使うであろうシナリオを考え、それを実現するのに一番堅牢性が高い方法を選んだのです。その結果、既存のファイルシステムを利用しつつ、インデックスやタグを用いた検索システムを実装しました。これはとても素晴らしい仕事であったと思っています。

 我々は、セキュリティには非常に力を注いでいます。例えば「BitLocker」というハードディスクの暗号化機能を搭載し、ノートパソコンのデータの安全性を確保しています。もちろん攻撃者は次々に新たな手を使ってきますので、セキュリティの改善活動は今後も続けます。NGSCBというセキュリティ機構は実装していませんが、Vistaは世界で最高のセキュリティを実現していると自負しています。

 マイクロソフトは常に、製品の開発過程に関して透明性を持たせてきました。みなさんからフィードバックを頂いて製品開発に反映させるためです。

 透明にすることにはリスクもあります。途中で計画を変更すると、今回のように批判が出るのです。それは当然のことです。ただ今回の変更は、有益な変更だったと思っています。

■Vistaの機能の中には、Windows Aeroなど、特定のハードウエアに依存している機能があります。ユーザーの混乱を招かないでしょうか。

 OS開発の挑戦課題として、我々は将来のハードウエアのことを考えに入れています。例えばUSBのコネクターを持たないノートパソコンが多かった時代でも、我々はUS Bをサポートしていました。USBのコネクターを購入すれば、こうした機能が使えるようになったのです。

 最近のグラフィックスの進化はめざましいものがあります。我々はハイエンドなパソコンに対しても、OSの標準機能でその要求を満たせるようにと考え、Vistaを開発したのです。

 ユーザー間の混乱は、あまり起こらないのではないかと考えています。例えばテレビでも、同じ映像が機種によって白黒になったりカラーになったりします。良いものを見たいと思えば、新しいハードウエアを買えば済むのです。これは、USBのコネクターと同じことです。

 環境も整ってきています。大手グラフィックスチップメーカーが、Vista用の高品質なドライバーを開発しています。マイクロソフトが公開するパソコンの診断ツール「Windows Vista Upgrade Advisor」も役に立つでしょう。

■Office 2007は、旧版と比べて激変しました。これは、いつどのような理由で決断したのですか。

 Officeには、ユーザーからさまざまな要望が寄せられていました。ただ、今あるものを使いこなせないまま、新しい機能を追加するのは良いことではありません。そこで一歩退いて、長い時間をかけて新しいOfficeを設計しました。どのくらいの画面領域を使えるか、いくつのコマンドを表示すべきか、キーストロークは今のままでよいのか、などさまざまな検討をしました。その結果生まれたのが、新しいユーザーインタフェースのコアである「リボン」です。

 この変更は、ごく一部の人にとっては慣れるのが大変かもしれません。ただ習得に少し時間がかかったとしても、価値ある変更だと思っています。以前は作れなかった見栄えの良いデータを短時間で作れるようになり、時間の短縮になります。データを見る側にとっても、前よりも内容が伝わりやすいため、時間の節約になるでしょう。

■ファイル形式も「Open XML Formats」に変わりました。また同時に、「OpenDocument」という競合も出てきました。

 具体的で、目に見えるメリットがなければ、このような変更はしません。オープン性やセキュリティ、ファイルサイズなどの面で大きな進歩があると判断したので、今回の変更に踏み切りました。

 OpenDocumentという競合もありますが、これはあくまでもファイル形式でしかありません。ユーザーが、ファイル形式でソフトを選ぶことはないと私は考えています。ユーザーが望むものを開発すれば、結果的にファイル形式も普及するでしょう。大切なのは、文書を作成するための最高の環境を作ることなのです。

■メーカーが公開するロードマップを見て、ユーザーが夢を描き、パソコン市場が成長するという時代が続いてきました。市場は変わっていますが、これからもこのやり方は変わらないのでしょうか。

 我々は、ソフトウエアや開発プロセスに関して情報を公開し、フィードバックを聞きたいと思っています。ただ、これは単純な話ではありません。先日も日本のパソコンメーカーの人たちと会って、どんな情報をいつマイクロソフトが公開すべきかを話し合いました。彼らはできるだけ早い時期に情報が欲しいといっていましたが、それでは不確定なものになってしまう場合もあります。

 コンピューターが好きな人は、いつも最新の情報が欲しいでしょう。一方、企業のように保守的な組織は、情報がきちんと固まるまでは公開してほしくないといいます。我々は、こうした幅広いユーザーの要求に対して、うまくバランスを取っていく必要があるでしょう。

【プロフィル】1989年、ソフトウエアのデザイン・エンジニアとして米マイクロソフトに入社。開発ツール「VisualC++」初版などの開発を推進する。1994年にOffice製品の開発グループに加わり、Office 95やOffice 97の共有技術部分の設計を指揮。Office 2000、XP、2003、2007などにおいては、プログラムやサーバー、サービスの開発を監督してきた。2006年3月から現職。