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 フリーソフトウェアイニシアティブ(Free Software Initiative of Japan,FSIJ)が開催した「第5回インターナショナルGPLv3カンファレンス」で2006年11月21日,フリーソフトウエア運動活動家であり,Free Software Foundation(FSF)の創設者であるRichard Matthew Stallman氏がGPLv3(GNU General Public License version 3)について説明した。GPLv3は,フリーソフトウエアのライセンスであるGPLの次期バージョンであり,2007年にリリースが予定されている。

 GPLv3は,大事なところは現行のGPLであるversion 2から変わっていないという。変更点はいずれも具体的なものである。

 Stallman氏は講演の中で,GPLv3の重要な変更点を挙げていった。最初は,国際化が進んだという点である。現行のGPLを作ったのは米国の弁護士であり,他の国の法律の専門家ではなかった。そこでGPLv3では,どんな国においてもなるべく解釈のあいまいさが残らないように努めているという。例えば「distribute」という言葉は様々な意味があるので使わないようにした。代わりに,より意味の狭い「propagate」や「convey」という新しい言葉を使っている。

 次が,他のライセンスとの互換性である。現行のGPLは,Apache LicenseやEclipse Public Licenseといった重要なライセンスとは互換性がない。これらのライセンスには,GPLにはない追加的な「requirement」(要求)の条項があるためだ。そこで,GPLv3ではrequirementの追加を許可することで,これらのライセンスと互換性を持たせられるようになっている。

 「ユーザーの自由を奪い取る新しい方法に対する反応」も重要な変更点である。このために「変更したソフトウエアを同じように利用できる」ことを義務付ける。

 これに関してStallman氏は米TiVoの例を挙げた。TiVoのセットトップ・ボックスにはGNU/Linuxが入っている。TiVoはソースコードを提供しており,ユーザーが変更することが可能だ。しかし変更したコードは動作しない。ハードウエアがソフトウエアの変更を検出するとシャットダウンするように作られているためだ。Stallman氏はこれを「Tivoization」(TiVo化)と呼んだ。TiVoはたしかに現行のGPLには違反していない。しかしユーザーの自由は制限している。これは「裏切りの(treacherous)コンピューティング」(同氏)である。「一般の人が技術にアクセスするのを企業がブロックするのは犯罪である」と同氏は厳しい言葉で断罪した。

 ソフトウエア特許に対する対策を強化したのもメジャーな変更点である。Mozilla Public License(MPL)と同じような特許ライセンスを盛り込む予定だという。

 Stallman氏はマイナーな変更もいくつか挙げた。この中で重要なのはライセンスの終了に関する変更である。ライセンス違反が発覚した場合,違反をやめてから60日間のクレーム期間を置く。この期間にクレームを付けた人とだけ話し合えばいい。クレーム期間が過ぎれば,またGPLによる配布を認める。「ただし初犯のみ」(同氏)。違反を繰り返す場合は適用されない。

 講演の後半はQ&Aに当てられた。会場からは,オープンソースとフリーソフトウエアの違いについての質問が出た。これに対してStallman氏は「オープンソースは開発モデルであり,倫理的な問題に触れなくてもいいように作られた概念である。これに対し,フリーソフトウエアは倫理的な問題こそが根幹にある。社会活動であり,自由と社会的な連帯がゴールだ」と答えた。

 なお,Linuxの生みの親であるLinus Torvalds氏はGPLv3に対して批判的であることで知られている(参考リンク1参考リンク2参考リンク3)。そこで「彼はGPLv3を誤解しているのか」と質問してみた。これに対しStallman氏は「いや誤解していない。ゴールが違うだけだ。彼はDRM(デジタル著作権管理)もOK,TivoizationもOKという立場だ。我々は違う」と語った。