日本大学商学部・大学院商学研究科の教授、堀江正之氏
日本大学商学部・大学院商学研究科の教授、堀江正之氏
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 「内部統制を整備するポイントを一言で表すと、業務の適正化と効率化を図ることにある」――都内のホテルで開催したセミナー「IT Service Forum 2006」にて、日本大学商学部の堀江正之教授は「金融商品取引法に基づく内部統制構築と評価の勘所」と題した特別講演の冒頭で、こう語った。内部統制という言葉だけに右往左往している現状をとらえ、「まずは内部統制を規定する二つの法律を、きちんと考えていかなければならない」と注意を促した。

 内部統制の構築に関心が高まった背景には、日本版SOX法と呼ばれる金融商品取引法が法制化されたことがある。しかし、2006年5月1日に施行された会社法でも内部統制の制定が義務付けられている。堀江教授は、二つの法律が定める内部統制の違いを、「金融商品取引法が開示規制、会社法が企業統治とリスク管理」と位置付ける。こうした法律が求めることを理解した上で、冒頭で挙げた「業務の適正化と効率化」の具体策を考えていく必要がある。

 その勘所として、堀江教授は三つ挙げた。一つ目は、先に述べた二つの法律の違いを踏まえて対応すること。具体的には、「会社法をベースに内部統制を整備した上で、金融商品取引法が求める情報開示の統制を追加する」イメージだ。二つ目の勘所は、視野を広く持つことだという。「今は金融商品取引法ばかりに注目が集まっている」。しかし、金融商品取引法にだけ目を奪われていると、財務諸表にかかわる内部統制にしか目が向かなくなってしまう。「経営者の視点に立って、会計処理だけではない緊急事態を含めた、さまざまな情報を適切に開示する体制作りが欠かせない」。

 堀江教授は、情報開示の好例として米ジョンソン&ジョンソン(J&J)が1982年に起こした「タイレノール事件」を引き合いに出した。同社の鎮痛剤を服用した患者7人が、原因不明のまま死亡した事件だ。同社は即座に1億ドル以上をかけて計3100万個のタイレノールを回収。6週間後には改良を加えた商品を発売した。これによって、売り上げを失うどころか逆に伸ばすことに成功した。「重要なことは解決にかかるコストではない。統制管理の問題だ」。

 三つ目の勘所は、「内部統制は監査のためにあるのではない」ということ。堀江教授は「SIベンダーに言われるままシステムを導入するのではなく、業務をもう一度見直して適正化するという基本に立ち返って考えてほしい」と指摘する。まずは既存の業務に存在するリスクを棚卸しして、次いで、そのリスクに応じた内部統制の整備を考える必要がある。

 さらに堀江教授は、内部統制の整備にITを利用することの意味についても触れた。ITを利用するメリットは、内部統制の強化、効率化を実現できることにある。ところが、一部では内部統制の整備にIT化が不可欠と言う誤った風潮も広まっている。「IT化は内部統制を強化、効率化するために行うのであって、決してIT化されていないことが内部統制の不備につながるわけではない」と堀江教授は強調した。

 最後に堀江教授は、「攻めの経営の中で、どういうふうに統制を守っていくかを考えるべき」とアドバイスした。ブレーキを踏む統制だけでは、新しい事業の創出といったビジネスの芽を摘みかねない危惧があるからだ。