松江市は,産業振興政策として「Ruby City Matsueプロジェクト」を進めている。海外でも広く使われているオープンソースのプログラミング言語「Ruby」の作者まつもとゆきひろ氏が松江市に在住していることから,Rubyを松江市のブランドとして産業振興につなげようというものだ。今年の7月,松江駅前に交流スペース「松江オープンソースラボ」を開設,産官学連携により発足した「しまねOSS協議会」がラボを拠点として勉強会やカンファレンスを開催していく予定だ。「松江を世界に誇れる『Rubyのメッカ』にしたい」と語る松江市の松浦正敬市長にその狙いを聞いた(聞き手はITpro編集 高橋信頼,写真:齊藤哲也)。

---Ruby City Matsueプロジェクトを始められたきっかけは。

 実を言うと最初,私自身はRubyのことは全く知りませんでした。はじめにSOHO事業者などの交流や研修の場を作りたいという構想があって,アイデアを練っているうちに,世界的に普及しているRubyというソフトの作者,まつもとゆきひろさんが松江市に住んでいると聞いたんです。また(日本Linux協会初代会長の生越昌己氏がlinux.or.jpの最初のサーバーを松江で運用していたことから)松江は“日本のオープンソースのふるさと”と呼ばれていると。

松江市から全国に発信する

 しかし誰でも無料で使えるオープンソース・ソフトウエアでなぜ商売になるんだろう,と思いました。それで(まつもと氏が勤務する松江のIT企業である)ネットワーク応用通信研究所に話を聞きに行きました。

 ネットワーク応用通信研究所では,日本医師会の日医標準レセプト・ソフトを開発して公開していて,ソフト自体はオープンソース・ソフトウエアとして無料で公開していますが,その改定や維持管理は有料で請け負っている。ソフトウエアは無料で普及させ,そのノウハウは開発した人がいちばんよく知っているから,維持管理が商売になる。ネットワーク応用通信研究所の井上浩社長から,そういった話を聞いて,オープンソース・ソフトウエアへの期待が大きいということが実感できたんですね。

松江オープンソースラボのオープニングセレモニーで握手する松浦正敬氏(左)とRuby作者まつもとゆきひろ氏(右)(写真提供:松江市)
 オープンソースは,いろんな意味でオープンなものであり,まつもとさんという中心になる方がおられる。場を設け,たくさんの人に来てもらって,いろんな交流を続けていけば,必ず松江発の面白いものが出来る,そう考えました。

 ITだから,ネットワークがあれば,東京にいないといけないということはない。松江には,東京にはない環境のよさがあります。それを考えあわせれば,Rubyを核に,松江市から全国に発信できるはずです。時間と空間を飛び越える産業振興に結びつけたい。