5年ぶりに改装した松屋銀座店の下着売り場「ル ランジェ」。購入頻度の高いストッキングと目的買いの下着を同じ売り場にした
[画像のクリックで拡大表示]

 東京・銀座地区の百貨店で売上高1位を誇る松屋銀座店が9月8日に店舗を改装、さっそく効果が表れだした。外壁を一新したほか、食料品やハンドバッグなどの売り場を刷新した。

 店舗改装の狙いは、顧客の回遊率を高めること。顧客に自店の様々な売り場で商品を購買してもらう「買い回り」を増やすことだ。1階にある化粧品売り場に立ち寄った顧客を、いかにほかの売り場に誘導するかといった具合である。

 買い回りを増やすための象徴的な売り場となったのが、5年ぶりに改装した下着売り場「ル ランジェ」。輸入品を中心に12ブランドを追加するなど品ぞろえを増やすとともに、従来別だったストッキングなども同じ売り場にまとめた。改装後の2カ月間の売り上げを前年同期と比較すると、下着が108.5%、靴下が120.5%に伸びた。

 今回の取り組みで重要な役割を果たしたのが、2005年1月に導入した「新顧客情報システム」である。このシステムを活用するとは、同社のポイントカードを持つ顧客が、どの売り場で購入しているのかが把握できる。顧客の買い回りを調べて売り場の関連性を把握し、それに合わせて店内の改装を進めてきた。

 下着と靴下は、一般的には別の商品群でとらえる百貨店が多い。靴下を雑貨商品と分類し、ハンカチなどと同じ売り場に置くケースが多いのだ。松屋でも、下着売り場と同じフロアではあったものの、離れたところにあった。靴下売り場にあるストッキングは、ほかの買い物のついでに購入することが多いが、下着は必要がなければ売り場にも立ち寄らない目的買いが多いといったように商品特性も異なる。

 だが、両方とも女性にとっては必需品。どこかの店で購入していることは間違いない。購入頻度が高い靴下と高額な下着を同じ売り場にすることで、品ぞろえが豊富なことを認識してもらえる。「次に来店したときに、下着を購入しようという動機付けとなってきている」(営業企画部カード政策課の所吉彦セクションマネージャー)。実際、数字にも表れている。「靴下を購入し、下着も購入した」顧客は前年の同時期と比較して金額ベースで157.2%に伸びた。

 改装の当初の狙いであった、1階の化粧品の顧客を下着売り場にも誘導できている。化粧品を購入した顧客のうち、買い回りで靴下が1位となり、下着も6位から5位になった。輸入ブランドなど高級な商品の品ぞろえを強化することで、高級婦人服売り場の顧客からの購入も増えてきた。「化粧品以外にも洋菓子やサンドイッチ売り場など食品関連の買い回りも増えている」(同)といい、改装した売り場が店内の回遊性の向上に貢献している。

 下着と靴下に関連性があると考えて改装計画の立案の根拠となるデータを作ったのが、Jリーダーという役職の担当者だ。Jリーダーは、顧客情報システムを活用して担当する売り場の傾向やほかの売り場との関連性を調べる役割を担う。これまでは婦人雑貨など商品群ごとに配置していたが、今回の改装に併せて催事を担当する販売促進課の若手6人を選抜し、準Jリーダーとしてシステムを活用できるようにした。

 店内の各売り場に横串を通して催事を企画する販売促進課が、各売り場のJリーダーとシステムを活用しながら議論するなかで、下着と靴下に買い回りの可能性を見つけ出した。「下着と靴下売り場が離れているのは、いわば業界の常識。これを覆すためには、きちんとデータで見せる必要があった」(同)という。

 最近では、バイヤー(調達担当者)もシステムに興味を持ち始めるなど、ほかの部門にも新顧客管理システムの活用が広がり始めた。「全員がシステムを使って成功例を体験してもらうことで、システムの活用を広げたい」(同)と意気込む。