国内最大のIT専門学会である情報処理学会は11月15日、「高校教科『情報』未履修問題とわが国の将来に対する影響および対策」を発表した。10月に多数の高校で発覚した未履修問題で、教科「情報」が未履修のケースが少なくないことを問題視したもの。「このままだと情報教育が退行してしまう。すでに欧米だけでなく中国やインドなどにも、ソフトウエア開発など情報技術面で遅れつつある日本が、『情報後進国』に転落しかねない」との懸念を表明した。

 情報処理学会によれば、教科「情報」の時間の一部あるいは大部分を他教科の授業に振り替えていた例が多数発覚した。例えば情報の時間に数学の授業を実施し、通知表の情報の欄に数学の成績を記入していたという。さらに「その県の教育委員会が『他教科の内容を発展的に採り入れた』と主張している。今後も現状が是正されず、継続していく可能性が高い」と危惧している。

 またコンピュータ利用教育協議会(CIEC)のアンケート中間報告を参考に、「2006年度の大学入学生のうち『情報』をまったく履修していない生徒が4分の1程度いる」と指摘。「履修した生徒でも、本来必要な2単位70時間に満たないことが多い」という現状を明らかにした。

 情報処理学会は「情報」未履修の問題が起きる原因を四つ挙げている。一つ目は「情報」の重要性が生徒や他教科教員に認識されにくい状態にあること。次に、「情報」への教員のサポートが少ないこと。さらに、「情報」の教員に他教科の兼任を要請されている例が多いこと。最後が、「情報」を入試に出題する大学が少数しかないことだ。

 こうした状況を踏まえ、情報処理学会は「まず、すべての普通科高校で指導要領に従った『情報』の履修を可能とすること」を提言。さらに、「情報」の最初の必履修科目を1年次に置いて受験勉強とは無関係に学習を進められるように配慮する、情報科教員への他教科兼務をなるべく避ける、異なる学校同士で情報科教員の交流を活発にする、などを提案している。「情報処理学会は、すべての関係者がこれらの状況の解消を目指してそれぞれで可能な行動をとっていくことを呼びかける」とも明記している。