写真1 KDDIとメディアグローバルリンクスが実施した実証実験のネットワーク構成
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写真2 メディアグローバルリンクスが新たに開発したIPビデオルーター「MD6100R」
写真2 メディアグローバルリンクスが新たに開発したIPビデオルーター「MD6100R」
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写真3 KDDIネットワークソリューション国内営業本部メディア営業部事業企画グループの砂畠彰生課長
写真3 KDDIネットワークソリューション国内営業本部メディア営業部事業企画グループの砂畠彰生課長
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 KDDIと放送用機器メーカーのメディアグローバルリンクスは,放送局向けの映像配信用IP網を構築し,大容量の映像伝送実験に成功したことを明らかにした。現在の放送局向けの映像配信網は,ATM(非同期転送モード)や映像ベースバンド・スイッチなどの専用装置を使って構築しているが,KDDIでは新たにIPでの伝送実験に取り組んだ。

 実験では,KDDI東京-KDDI千葉間を10Gビット/秒,KDDI東京-沖縄テレビ放送間を2.4Gビット/秒の専用回線で接続(写真1)。メディアグローバルリンクスが新たに開発したIPビデオ・ルーター「MD6100R」を組み合わせたネットワークを構築した。このネットワーク上で,1.5Gビット/秒の非圧縮HDTV信号,270Mビット/秒の非圧縮SDTV信号,「JPEG2000」で圧縮した信号とイーサネットのデータ信号を混在させて取り扱えることを確認したという(写真2)。

 放送局の映像配信は,キー局から系列局への番組の伝送や,イベントのVTRなどの映像素材を各局でやり取りするのに使われる。リアルタイムでの伝送を要求されるため,100%の帯域保証が可能な専用網を構築して提供する。

 地上波デジタル放送の開始に伴って,放送局間の映像伝送は従来のSDTV信号を主体としたものから,HDTV信号へ移行しつつある。前述の通り,現在の映像配信網は映像ベースバンド・スイッチなどの専用装置を使って構築しており,1.5Gビット/秒もの非圧縮HDTV信号を流そうとすると機器コストが高くついてしまう。このため現在は,MPEG2で数十Mビット/秒に圧縮して伝送している。

 だが,圧縮することで新たな問題が生じてきた。KDDIネットワークソリューション国内営業本部メディア営業部事業企画グループの砂畠彰生課長は,「映像を圧縮することで500ミリ秒程度の遅延が発生する。キー局から系列局へ伝送した放送番組はリアルタイムでCMの差し換えなどを行う必要があるので,遅延が発生すると運用面の負荷が増大してしまう」と説明する(写真3)。このため放送局からは,「安価に非圧縮で伝送できるネットワークを求める声が上がり始めた」(砂畠課長)。

 一方で,地方局にはデジタル化の設備更改の負担がのし掛かっており,ネットワークにかける費用は極力抑えたいという意向が強い。そこでKDDIは,映像配信向けの大容量トラフィックを扱える専用IP網を開発。映像伝送に特化したメディアグローバルリンクスのIPビデオルーターを採用することで,機器コストを抑えた。

 放送局が必要とするのは大容量の映像を決まった放送局間で流すこと。汎用製品が想定している用途よりもかなり限定される。このため,放送局の用途に特化したIPビデオ・ルーターは,大幅に機器コストが抑えられるメリットがある。「1.5Gビット/秒の映像データを同時に複数扱えるほどの交換容量を持つ汎用ルーターは,1台で億円単位のコストがかかる。IPビデオ・ルーターなら1けた安くなる」(砂畠課長)という。メディアグローバルリンクスのIPビデオ・ルーターは最大容量が320Gビット/秒で,複数のHDTV信号のやり取りが可能となっている。

 砂畠課長は,「放送局向けの映像配信市場の規模は250億円。現在はNTTコミュニケーションズが大きなシェアを持っている。放送局が2008年末には映像配信網の更改をすると見ており,このタイミングで何とか参入したい」と意気込む。映像配信網の数は少なく,NHKは独自で,民放局は民間放送連盟を中心に共同で利用している。一つ取れれば大型の受注になるようだ。

 KDDIでは実験の様子,明日11月15日から千葉市の幕張メッセで始まる「2006年国際放送機器展」(Inter BEE 2006)に出展する計画だ。