「三菱東京UFJ銀行ダイレクトバンキングは29台のLinuxサーバーを利用している。お客様が直接利用する重要度最上位ランクのミッションクリティカル・システムだ」----11月7日,日経Linux主催の事例研究セミナーで,UFJIS オープンプラットフォーム部長 末廣修司氏は三菱東京UFJフィナンシャル・グループでのLinux利用状況をこう紹介した。
UFJISは三菱東京UFJフィナンシャル・グループにITプラットフォームを提供している。2003年に情報系から導入を始め,2004年1月に銀行内の勘定系システム,2005年7月にダイレクトバンキング・システムの本番稼働を開始した(詳細記事「カーネルの修正パッチを作成して障害を克服」)。
セミナーでは三菱東京UFJフィナンシャル・グループの事例のほか,経済産業省,富士通,日本ビジネスコンピューター,野村総合研究所,日本IBMによる事例紹介が行われた。
経産省の自治体,教育現場,省内へのOSS導入
経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 上原智氏は「経済産業省が推進するOSS政策について」と題し講演した。経産省は政府のe-Japan/IT戦略に基づき,産業政策と効率的な電子政府の2つの観点からオープンソース・ソフトウエア推進政策を進めている。具体的にはオープンソース・ソフトウエアの開発支援,導入実証実験の支援を行っている。
2005年度は,北海道札幌市,栃木県二宮町,大分県津久見市,沖縄県浦添市の4自治体に,各数十台から百数十台,合計数百台のオープンソース・デスクトップを導入した(関連記事)。2006年度は山形県庁,大分県庁,千葉県市川市,栃木県二宮町の4自治体に,総額2億円以上をかけてオープンソース・ソフトウエアを使用したデスクトップPCやシステムを導入する(関連記事)。また教育現場にも2004年度からオープンソース・デスクトップの導入を行っている(関連記事)
また経済産業省内でも2004年度から2005年度にかけて30台のLinuxデスクトップを導入した。「日常行を遂行するにあたっては特段の問題はない」という評価が得られたという(詳細記事「経産省内へのLinuxデスクトップ導入実証結果が明らかに」)。
基幹向けIAサーバーではLinuxが7割
富士通 サーバーシステム事業本部 Linuxソフトウエア開発統括部 統括部長代理 中村敬氏は,大規模基幹系システム向けIAサーバーPRIMEQUESTの事例を紹介した。
PRIMEQUESTはハードウエアを内部で二重化した基幹業務向けサーバー。OSはLinuxが70%,Windowsが30%になるという。PRIMEQUESTよりは小規模向けになるPRIMERGYではWindows8割,Linux2割となっており「Linuxは基幹系でのシェアが高い」(中村氏)という。
中村氏はPRIMEQUESTを採用した事例として,サークルKサンクス,滋賀銀行,富士通社内の調達システムとメール・システムを紹介した。
サークルKでは複数のサーバーで構成されるデータウエアハウスをLinuxに統合。バッチ・アプリサーバーも統合した。オンメモリーデータベースを利用している。
滋賀銀行では2008年1月の稼働に向け情報系システムの開発が進んでいる。滋賀銀行のシステムは「絶対に停止しないこと」が条件になっているという。
WebメールをRubyで開発
富士通の社内購買システムは,従来16部門でメインフレーム,オフコン,UNIX,Windowsのシステムが混在していた。これをLinuxに統合,2006年6月に本格稼働した。
富士通のメール・システムは,ローカルに情報を格納しなくてもよいようにWebメールへの移行を進めている。Linux上にRuby,MySQL,Postfixで構築されている。
また中村氏は「富士通Linux本体の開発に約100名,ISVソフトウエアとの組み合わせ検証に約100名,合計約200名の技術者がLinuxソフトウエアの開発に取り組んでいる」と,Linux開発体制を紹介した。ディスク・ダンプ機能やスレッド・セーフ化やデバイス数の拡大をRed Hatと,メモリー故障に対する耐故障性の改善をコミュニティと共同開発し,コミュニティに還元しているという。
オフコンでもLinux,PHP
日本ビジネスコンピューター Linux&技術支援担当GM 浜口昌也氏は,IBMのオフコンAS/400の後継であるSystem iの事例などを紹介した。ある金融系不動産会社では,IBMのオフコンAS/400の後継であるSystem iで,Linux上でサイボウズを動作させている。ユーザーSystem iの信頼性や運用管理機能などを評価しており,グループウエアもSystem iで動作させたいという要望があったためだ。System iの論理分割機能を使用し,一部の区画でLinuxを動作させている。
また携帯電話向けサイトを運営するオープンドアは,Oracle搭載マシンをSunのRISC UNIXからLinuxを搭載したIAサーバーへ移行した。同等価格帯のマシン性能が向上したほか,CPU数が減ったためソフトウエアのライセンス料金も削減できたという。
空調機器販売会社ではオフコンの基幹システム,UNIXの情報系システムをLinuxに統合した。オフコン担当者の定年が近づいていることもあり,COBOLの基幹システムをLinuxとPHP,Tomcat,PostgreSQLで再構築した。
日本ビジネスコンピューターでは,System i上で,Linuxの上ではなく,オフコンのOS上でPHP,MySQL,Apacheを動作させる検証を行っており,社内向けの社長BlogをSystem iのOS上のPHPで動作させているという。またSystem i上でのPHPの普及を図る「OpenSource協議会 - System i5」を日本ビジネスコンピューターの奥村捨吉氏が会長となり設立している(関連記事)。
毎秒2万4000件のトランザクション,同時1000クライアント
野村総合研究所 オープンソースソリューションセンター マネージャー 寺田雄一氏は,セブンドリーム・ドットコムなどの事例を紹介した。いずれも野村総合研究所が検証,チューニングしたオープンソース・ミドルウエアの組み合わせ「OpenStadia」を利用している。OpenStandiaはJBoss,Tomcat,MySQL,Hibernate,Strus,Springなどで構成され,Application Server部分は野村総研のOpenStandiaのサイトから無償でダウンロードできる。
セブンドリームはセブン-イレブンの大規模ECサイト。画面のキャッシュによる高速化や,高負荷時でも販売画面を優先表示する機能などにより,機会損失を削減している。
野村総合研究所の証券オンライントレードASPでは,毎秒2万4000件のトランザクション処理を実現したという。またJBossを独自に性能改善し,同時1000クライアントの接続が可能になったとしている。
金融機関のカスタマーセンターでは,顧客へ発送する帳票の開発,生産処理をオープンソースの帳票ツールJasperReportで実現した。そのほかイー・トレード証券のオンライントレード・システム,金融情報アグリゲーション・サービス,チケット予約システムなどでも実績があるという。
また講演で,この日新たにPostgreSQLと帳票ツールEclipse BIRT,レポーティング・ツールiReport/JasperReportsをOpenStandiaに加えたことを明らかにした(関連記事)。またApache Geronimoも日本IBMと協力し評価中であるという。
Apache Geronimoを米最大手Eコマース・サイトが採用
日本IBM 先進システム事業部Linux事業推進部部長 山本明厚氏は,メインフレームzSerires上でLinuxを稼働させた事例などを紹介した。
zSeriesでは仮想化技術により,1台のマシンを複数のマシンに分割して使用することができる。愛知県庁では,System z9上でLinuxを稼働させ,DBサーバーとして利用している。日本郵船でもz990上でLinuxを採用した会計システムを構築(関連記事)。ローソンでは200台以上のUNIXサーバーやPCサーバーで行っていた業務を2台のz990にLinuxを使い集約した(関連記事)。
また山本氏は,開発ツールのEclipseなど,IBMは多くのオープンソース・ソフトウエアをコミュニティに寄贈していると述べた。「IBMでは600名を超える要因が世界各国のLinux Technology Cneterでオープンソース・ソフトウエアの開発に従事している」(山本氏)。
IBMがWebSphereの技術をApache Software Foundationに寄贈して生まれたオープンソースJ2EEアプリケーション・サーバーGeronimoは「すでに米国のEコマース最大手や金融業界などで採用された」という。