マイクロソフトと国内のパソコンメーカー8社は2006年11月6日、今後のパソコンの発展について議論するイベント「PC Innovation Future Forum」を開催した。米マイクロソフトからは、スティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)や、同 OEM アジア担当のリック・ウォン バイスプレジデントが出席。国内の主要パソコンメーカーの社長や事業部長らと意見を交わした。
会の冒頭に挨拶したバルマー氏が強調したのは、パソコンの重要性。「すべてのインテリジェントな機能はサーバーに移り、パソコンは単なるダム端末に過ぎなくなると言う人がいる。しかし、私はそうは考えない。パソコン産業には、ワクワクできる未来が待っている」(バルマー氏)。マルチコア化が進むCPUやWiMAXのような新しいハードウエアを活用し、新たな価値を提供していくべきだと述べた。一方で、新興国や中小企業など、これまでIT化があまり進んでいなかった分野での市場拡大が見込めるとの期待も示した。
次に、パソコンメーカー各社がそれぞれ、今後のパソコン事業に関するビジョンを紹介した。出席したのは、NECパーソナルプロダクツの高須英世代表取締役執行役員社長、エプソンダイレクトの山田明取締役社長、シャープ情報通信事業本部の大畠昌巳本部長、ソニーの石田佳久コーポレート・エグゼクティブ SVP VAIO事業部門長、東芝の執行役上席常務である能仲久嗣PC&ネットワーク社社長、日立製作所 ユビキタスプラットフォームグループ ユビキタスシステム事業部の金子徹事業部長、富士通の経営執行役である山本正己パーソナルビジネス本部長、松下電器産業パナソニックAVCネットワークス社 システム事業グループ ITプロダクツ事業部の高木俊幸事業部長だ。
主なテーマとなったものの一つが、パソコンとハイビジョンテレビなどのデジタル機器との融合。「パソコンはテレビの機能を完全に取り込むべき。さらに、リモコンですべての操作を可能にする、電源を入れたらすぐ起動するなどの利便性も確保したい」(日立製作所)、「HD DVDやSED、CELLなどの新技術を次々に取り込んでいきたい」(東芝)などの意欲的な意見があった。一方で「パソコンもデジタル機器の機能を取り込んでいくことが必要だが、一方でコンピュータとしての特徴付けを明確にし、デジタル機器との差異化を図るべき」(NEC)、「パソコンの家電化が今後ますます進むだろうが、現在のOSには、家庭の中で使うには過剰な機能もある。家庭でパソコンを普及させるために、もっとシンプルなOSのサポートもお願いしたい」(シャープ)などの指摘もあった。
パソコンが、デジタル機器をはじめさまざまな機器をつなぐハブとなる、という意見も目立った。そのために「家庭内の主役はパソコンだ、ということを明確にアナウンスすべき。そのうえでパソコンをベースにしてさまざまな製品を展開し、ユーザーに安心して使ってもらえる環境を構築したい」(富士通)という意見が上がった。
使い勝手やデザインの改良については「販売から納品、サポート、廃棄まで、ユーザーの意見を1対1で聞いて反映したい。これによってトータルの使いやすさを追求したい」(エプソンダイレクト)、「デザインのみならず操作性や操作感を高め、持つ喜び、所有感を感じてもらいたい」(ソニー)、「子どもからお年寄りまで幅広い人が使える直感的なユーザーインタフェースや、10年間問題なく使える安定した品質など、家電から学ぶべきところがある」(富士通)などの意見が聞かれた。また「オフィスワーカーのIT化は一段落したが、フィールドワーカーの分野は米国ですら遅れている。過酷な環境下でも利用できるパソコンを開発するなどして、パソコンが使われていなかった分野をパソコンで置き換えることによって市場拡大を狙う」(松下電器産業)など、新たな市場開拓に向けた発言もあった。
マイクロソフトに対する要望も、口々に語られた。多数のメーカーが挙げたのが、OSの機能を細分化してメーカー側のカスタマイズの自由度を上げてほしい、日本のデジタル放送関連機能を重視してWindowsに標準搭載してほしい、といったものだ。さらに、セキュリティに関する要望もあった。「パソコンにデータが蓄積されている限り、データ漏洩の危険性はゼロではない。この不安をぬぐえずにパソコンを持ち出し禁止にする企業も増えており、これはパソコン業界にとっては問題だと考えている」(松下電器産業)。危険がゼロだとは言えなくても、例えばハッキングするには何兆円かかる、などのように、ユーザーが安心できるようなメッセージを発信してほしいと述べた。
バルマー氏はこれらの発言を、始終熱心にメモ。最後には「今週は(米マイクロソフトの本社がある)シアトルでたくさんの会議があるが、これだけのメモを取ることはないだろう」と文字がびっしりと埋まったメモ用紙を掲げて見せ、今後の製品開発に生かしていくことを約束した。マイクロソフト日本法人のダレン・ヒューストン社長も「パソコンが、次の革新の中心にあることを確信している。これを実現するには努力が必要かもしれないが、成功すると信じている」と結んだ。