独SAP日本法人でアジア太平洋地域の小売業・卸業・貿易業を担当するディビッド・ストーバー バイスプレジデント

 「小売業界のIT化という点では、東欧とインドの市場に注目している」---。ERP(統合基幹業務)パッケージ大手、SAPジャパンのバイスプレジデントであり、アジア太平洋地域の小売業・卸業・貿易業を担当するディビッド・ストーバー氏はインタビューでこう切り出した。
 
 「ルーマニアやブルガリアなど東欧地域では、可処分所得が増えており、実に収入の85%を服飾費や外食費に充てている。このように消費意欲の高い東欧諸国は、北米の不動産業者など海外からの投資も呼び込み、スーパーマーケットが次々と建設されている」(ストーバー氏)。東欧で消費に走る人が多いのは、住宅やマンションを購入するのが難しいためだという。
 
 しかも、東欧諸国の人は一般に、「商品に対するブランド志向が強く、品質にもうるさい」(同)。このため、小売業者からすると収益性が高く、魅力のある地域なのである。

 インドの小売業界は少し異なる様相を呈す。米国や西欧諸国から見るとまだ成熟しておらず、多数の中小規模のコンビニエンスストア、食品スーパーマーケット、ハイパーマーケット、百貨店が乱立し、激しい競争を繰り広げている。ストーバー氏は、「かつてのカリフォルニア州のゴールドラッシュのようだ」と目を輝かす。

 インドではこれまで、海外企業が現地の小売業者に直接投資することが禁じられていた。今年4月に51%までの投資を解禁することを決めた上、小売業に使える新規の不動産物件が足りないことも相まって、「2~3年後には多数の中小企業が統合され、10社程度の大企業に集約されるだろう」という。米ウォルマート・ストアーズや仏カルフールなどが本格進出の準備を進め出した。

 ただし、ストーバー氏は「インドの消費者の嗜好は東欧とは異なる」と指摘。服飾品へのブランド志向はあるが、食事に関しては外食よりも自宅で料理をする傾向が強いため、食料品支出が多いという。

 現在の東欧やインドのように小売市場が右肩上がりで急拡大し、各社が店舗数をどんどん増やしている段階では、ITは主にPOS(販売時点情報管理)とSCM(サプライチェーン・マネジメント)の領域で活用される。SAPは昨年末、POSシステムを短期間で構築できるソフトウエア技術を持つカナダのトリバーシティ社を買収しており、今後この領域を積極的に攻めたい意向だ。

 一方、日本や米国、西欧など“成熟市場”ではどうか。

 「POSやSCMといったコスト改善を目的とした領域だけではなく、バイヤーが店舗別・商品別のきめ細やかな価格戦略を練ることを可能にするためにもITが使われつつある。つまり、業績を向上させる領域にITを使う」とストーバー氏は主張する。
 
 例えば、ある商品の価格をある時期に変動させたら売り上げがどうなるかといった予測や、仕入れのロットサイズ別の在庫リスクをシミュレートできるようするのだ。あるいは、店頭に並べる商品の組み合わせの変更による売り上げ予測もITで実現する。ただしERPベンダーであるSAPから見ると、日本の小売業はITを自社開発する企業が多く、難しい市場だという。