「実施基準の草案は今月、日の目を見るだろう」。金融庁企業会計審議会内部統制部会の部会長を務める、青山学院大学大学院の八田進二教授は11月1日、東京・品川で開催されている東芝ソリューションフェア2006の基調講演で、「ここでの発言はすべて、部会長としてではなく個人の考え」と前置きしたうえで、通称「日本版SOX法」の実務指針(ガイドライン)である実施基準に関して、こう言及した。

 実施基準とは、日本版SOX法に対応する際に必要になる内部統制報告書を作成・評価・監査する際の指針となる「基準案(正式名は「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案」)」の内容を、実務支援のためにより詳細に説明した文書のこと。内部統制部会は、昨年11月に実施基準の作成を決定。同部会内に22人のメンバーから成る作業部会を置き、作業を進めている。

 八田教授によれば、本日(11月1日)作業部会の会議を開催。その結果を基に、今月中に内部統制部会の会議を複数回開き、合意が取れれば草案公開の運びとなる見通しだ。その後、草案に対するパブリック・コメントを反映させた上で、年末あるいは来年初めにも実施基準の正式版が登場すると見られる。

 今回の講演で、八田教授は日本に先行してSOX法(2002年サーベインズ・オクスリー法)404条の適用を進めている米国が、「はっきり言って機能不全に陥っている」と指摘。SOX法404条に基づく内部統制報告書を作成するために必要になる経営者評価や監査のやり方を細かく規定しすぎているため、「得られるベネフィットよりもコストのほうが、はるかに大きくなっている」からだ。

 日本では、「米国の轍(てつ)は踏まない」との強い意思のもと、基準案や実施基準を策定しているとしている。実施基準では、100項目のQ&Aを示したり、対象となる財務報告の範囲を示したりするが、「特に米国の監査事情に精通している人ほど、違和感を持つかもしれない」と、八田教授は語った。

 八田教授は講演で何回も、「内部統制の“原点”に立ち戻るべき」と強調した。「内部統制には、画一した回答はない。それらは個々の企業の経営者が考えるべきこと。業務の有効性と効率性を高め、経営者にとって風通しのよい企業にして、サステナブル(持続可能)な企業経営を実現することこそが、本来の狙いだ」。そのためにも、実施基準を全社レベル、および現場レベルでの議論に生かしてほしいと、会場に訴えた。