写真1●NHKの総合企画室担当局長である和田郁夫氏
[画像のクリックで拡大表示]
 NHKは10月26日,マイクロソフトが同日開催した次世代Webアプリケーション開発カンファレンス「REMIX Tokyo」の基調講演で,2008年に開始する予定のインターネット動画配信で使用するアプリケーションのデモを実施した。NHKは動画配信にWebブラウザではなく,より表現力の高いWindows Presentation Foundation(WPF)ベースの「リッチ・クライアント」を使用する考えだ。

 今回のデモは,NHKの総合企画室担当局長である和田郁夫氏(写真1)が,米Microsoftのプラットフォーム戦略担当ゼネラル・マネージャであるCharles Fiztgerald氏の基調講演にゲストとして登場して行われた。NHKの披露したアプリケーションは,Windows Vistaと同時に出荷される「.NET Framework 3.0」の機能の一部であるリッチ・クライアント実行環境WPFを使用した例,という位置づけである。


写真2●番組リストの表示画面
[画像のクリックで拡大表示]
 例えば写真2は,動画配信アプリケーションで,番組のリストを閲覧している画面である。各動画コンテンツには内容などに関するメタ・データが埋め込まれている。ユーザーが,海を題材にしたドキュメンタリー番組(最下列の左から4番目)を選択すると,上の列に海に関連する内容の番組リストが表示される。その中から今度は歌手の平原綾香さんの番組を選択すると,左右の行に平原さんが出演する番組リストが表示される。これらの番組のサムネイルは,ネット経由で動的に取得している。WPFを使ったデスクトップ・アプリケーションなので,画像の拡大/縮小表示や重ね合わせ表示もなめらかだ。

 NHKの和田氏はWPFベースのアプリケーションを開発した理由をこう説明する。「現在は放送法によって,NHKがインターネット上で有償でコンテンツを配信することは禁止されているが,NHKのコンテンツは消費者に還元すべきだと考えている。放送法の改正によって,2008年中にはNHKアーカイブスのオンデマンド事業を開始できる見込みだ。2008年のIT環境を考えると,Windows Vistaがかなり普及しているはず。Windows Vistaがもたらす新しいユーザー・インターフェース(UI)は,われわれにとっても大きな関心事だ。われわれはアーカイブス・オンデマンド事業を2008年にWindows Vista向けに始めようと考えており,アプリケーションをXAML(WPFのUI記述用マークアップ言語)で開発している。よって今回披露するアプリケーションは,実サービスに近いものだ。『なんちゃって』ではない」。

 ほかの画面を見てみよう。写真3は,視聴者が見逃したNHKの番組を,オンデマンドで視聴できる「NHK見逃し番組リクエスト(仮称)」の画面である。画面左のカレンダーから日付を選択すると,その日に放映された番組をサムネイル画像付きで確認できる。写真4は,芸術・音楽番組を集めた番組リストの画面である。写真3から写真4にいたる画面の切り替えなども,3次元CGや画像のなめらかな拡大・縮小といった視覚効果が多用されていた。なおNHKでは,2008年の段階で720pのHD動画を配信する考えだという。今回もHD動画の再生をデモしたが,ビット・レートは6Mビット/秒だった。


写真3●「NHK見逃し番組リクエスト(仮称)」の画面
[画像のクリックで拡大表示]

写真4●芸術・音楽番組を集めた番組リストの画面
[画像のクリックで拡大表示]

 和田氏は,動画配信を通じて「Web 2.0」的な取り組みにも挑戦する,と語る。「われわれがやろうとしているのは,視聴者にコンテンツを届けることだけではない。インタラクティブな,Web 2.0的な世界を作りたいとも思っている」(和田氏)。その実例として,動画配信とリンクしたコミュニティ機能もデモした。ユーザーの番組に関するレビューなどを掲載できるようにする(写真5)ほか,ユーザーによる「お勧めリスト」(写真6)なども作れるようにする。


写真5●ユーザーによる番組に関するレビューの画面
[画像のクリックで拡大表示]

写真6●ユーザーによる「お勧めリスト」
[画像のクリックで拡大表示]

 和田氏は「現在検証しているのは,次世代PCで映像を視聴するうえでの操作性の問題と,PCで映像を視聴するうえでの最適画質はどのようなものか,ということだ。操作性に関しては,今後もアプリケーション開発の中で検討していく。画質に関しては,当面は720pで十分だと考えている。将来的には,1080iのフル・ハイビジョンも配信したい」と語る。

 操作性を考慮すると,Webアプリケーションよりも,WPFを使ったリッチ・クライアントの方が優れていると判断したわけだ。また今回デモを行ったデスクトップ・アプリケーションでは,HD動画の再生もスムーズに行われていた。Webアプリケーションでは,ブラウザ内でHD動画の再生をするのは難しいので,別途Media Playerなどを起動する必要がある。HD動画との相性も,リッチ・クライアントの方がよいという判断だろう。和田氏は「引き続き技術的な検証を続けながら,新しい時代の映像配信サービスを提供したい」と語っている。