アメリカン・エキスプレス・インターナショナル日本支社の河野聡・人事部マネジャー
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 アメリカン・エキスプレス(アメックス)インターナショナル日本支社が、社内公募制度の利用の活性化に取り組んでいる。同社は、世界的なクレジットカード大手の米アメックスの海外事業会社。一般的な日本企業とは異なり、異動も昇進も基本的にはすべて公募でまかなう。

 しかし、3年前に全社的に組織体制を変更したところ、公募の利用がやや停滞して空きポジションが生じにくくなった。このため、事業環境の変化に応じた迅速な人材配置転換、人材育成、組織の活性化などに支障を来たす恐れが出てきた。

 そこで日本支社では、「2006年は2005年に引き続き、シニアおよびミドルマネジメントの流動化を促進。例えば、ボードミーティングの中で人材評価を実施後、特に優秀な人材については昇進や部門間異動の公募に自発的に応募するよう働きかけている」(河野聡・人事部マネジャー)という。

 つまり、優秀な人材が現在の職務に満足して1つのポジションから動かないのではなく、次々とより大きな責任のある仕事や新しい仕事に挑戦していったほうが、本人が早く幹部候補生として育つだけでなく、周囲の社員も良い刺激を受けると見ているのだ。

 アメックスでは2003年8月に事業部ごとに業績への結果責任を強く求める組織体制に変更したため、従来と比べると、各部が優秀な人材を囲い込み、異動が起こりにくい環境となった。そこでまずは、1つのポジションから動かない社員には毎年、より高いゴールを設定させるようにし、それを達成しないと賞与が下がるようにして、人材の流動化を促してきた。

ポジションごとの給与から市場価値を知る

 アメックスが社内公募に徹底的にこだわる根底には、「会社による強制的な人事異動は、短期的にはともかく、長期的に見ると優秀な人材の獲得と定着に結びつかない」という考えがある。つまり、自分のキャリアは自己責任で築くという価値観を強く持つ人材が良いパフォーマンスを発揮し、そうした人材を社外に流出させずに会社に惹きつけるには公募制度が欠かせないと見ているわけだ。

 同社は、社内公募制度を徹底的に活用していると、各部門長が魅力的な職場作りに積極的に取り組み、社員満足度を高めようとするといったメリットもあると判断している。公募制度によって部下が異動した後、今度は他の職場から優秀な人材に来てもらえるようにする必要があるからだ。

 アメックスの社内公募制度には大きな特徴が3つある。1つは、応募する時に直属の上司から推薦文などをもらう点だ。上司に応募を留める権利はなく、優秀な人材を他部門に輩出すれば、上司はプラス評価される。これに対して日本企業の社内公募制度では一般に、応募すること自体を直属の上司に分からないように運用するケースが多い。

 2つ目の特徴は、面接でそのポジションで求められる専門知識や専門能力よりも、同社が規定する8つのリーダーシップ・コンピテンシー(行動特性)の評価を重視する傾向が強い点だ。その中には例えば、「Drives Results」(個人や共通の目標を達成することに責任を負う)や「Builds Diverse Talent」(権限委譲と能力開発を通じて目標達成意欲の高い職場環境を作る)がある。

 面接時にコンピテンシーを重視して評価してもらえば、社員は従来とは異なる職種へ異動しやすくなる。アメックスでは、各部署への人材の採用決定権は部門長が持ち、人事部はサポート役に徹す。「部門長は自分の後任者を誰にするか常に考えている。部内で育ててもいいし、部外の人材に目星を付けておいてもいい」(河野マネジャー)

 3つ目は、ポジションごとに市場での給与レベルの幅を明示する点だ。当然、社員はその給与幅の中で自分がどの位置にいるかが分かる。「例えば下にいたら、『その職種はあまり向いてない』『スキルを磨く必要がある』『職種を変えるべき』『転職すべき』といった決断ができる」と河野マネジャーは説明する。ただし今のところは、職種別に給与水準を変える日本企業が少ないため、アメックス日本支社は主に外資系企業の職種別給与をベンチマークしている。

 アメックス日本法人の社員数は500人弱。2004年実績では73人が社内公募制度を使って異動・昇進している。内訳は、部門間異動が16人、部門内異動が24人、外部人材の採用が33人。また、部門間と部門内の異動の計40人のうち半数弱は昇格だった。