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 「この25年を振り返ると、システムの開発方法はずいぶん変わってきた。アセンブラやCOBOLを利用した時代から、オブジェクト指向が主流になった。メインフレーム時代はファイル・サーバーに近かったデータベースも、リレーショナル・データベースが登場して一変した。こうしたシステム開発の一連の変化の延長線上にあるのが、SOA(サービス指向アーキテクチャ)だ」。SAPジャパン、日本IBM、マイクロソフトの3社が「システムの近未来―ビジネスシステムの統合化/サービス化の行方」と題して10月25日、「日経コンピュータ創刊25周年記念セミナー」でパネルディスカッションを行った。冒頭の発言は、SAPジャパン ソリューション&マーケティング統括本部長 安田誠バイスプレジデントのもの。

 3社は企業システムの近未来の姿として、それぞれの立場から「SOAに基づいたシステム開発が主流になる」と語った。「SOAは技術論が先行し、IT技術者の言葉遊びのように思われている。だが、本質はITがビジネスにどう貢献するかを考えることだ。SOAに基づいたシステムの構築はすでに始まっている」と、日本IBMソフトウェア事業インフォメーションマネジメント事業部 事業企画の森英人部長は主張。マイクロソフトのMC&Aシステム部シニアアーキテクトのマイケル・ダイクス氏も、「昨年中頃から、SOAの事例は出てきている。SOAはすでに始まっている」と強調した。「SOAは浸透していないというが、企業システムの変化は数年かけて起こるものだ」(ダイクス氏)。

 日本IBMの森部長は、「SOAのエントリーポイントはさまざま。SOAは、どこからでも始められる。SOAというと、『アプリケーションをサービス化しなければいけない』、『ESB(エンタープライズ・サービス・バス)を導入して、サービスを制御しなければならない』など言われるが、こうした決まりはない」とする。ただしSOAに基づいたシステムを構築する際に必要なのは、「アプリケーションとデータの関係を疎にすること」と森部長は強調。「これまでは、アプリケーションとデータは対になっていた。だがSOAに基づいてシステムを構築する場合は、どのようなサービスからでも必要なデータセットにアクセスできる環境が必要だ。これを実現するためにIBMは『インフォメーション・オンデマンド』を提唱している」(森部長)。

 マイクロソフトのダイクス氏は、「マイクロソフトはSOAを積極的に打ち出していなかった。SOAは、システムを開発するための一つのスタイルだからだ」と説明。ダイクス氏は、「サービスたくさん作って公開しても、利用者が活用できる手段を作らなければSOAに基づいてシステムを構築する意味がない。その手段は、ポータルであったり、Office製品であったり、さまざまだ」とする。「SOAを実現するための要素は三つ。サービス化したアプリケーションと、サービスを接続するための非同期ベースのメッセージ。そして複数のサービスをビジネス・プロセスに沿って連携させるためのオーケストレーションだ。ただし、これらを一気に全社的に導入する企業はない。SOAの有効性を検証し、評価しながら、企業はSOAに基づいてシステムを構築しようとしている」(ダイクス氏)。

 SOAに基づいたシステムを構築するうえで重要だと3社が指摘するのは、業務の視点で、企業のコア・コンピテンスにかかわるシステムと、汎用的なシステムを切り分けることだ。SAPジャパンの安田バイスプレジデントは、「我々のようなパッケージ・ソフト・ベンダーの製品で、企業のすべてのシステムを構築することはできない。我々は汎用的な業務をカバーしているが、本当に企業のコア・コンピテンスにかかわるシステムは自社で開発する。両社を組み合わせて効率的なシステム開発を実現するのがSOAだ」と説明。

 日本IBMの森部長は、ある百貨店が贈答品の配送追跡システムを自社で開発せずに、運送業者の宅配システムを自社に組み込んだ事例をSOAの例として紹介した。「百貨店にとって配送追跡システムはコア・コンピテンスではないのに加え、自社でシステムを構築するとビジネスのスピードに追いつけない。宅配事業者という外部のシステムを百貨店が自社に取り込むことで、ビジネスのスピードに追従するシステムが構築できる」(森部長)。

 マイクロソフトのダイクス氏は、「SOA時代に情報システム部門やITベンダーに求められるのは、何が自社の差異化要因になっているかを見分けられる力。アーキテクトといっても、技術を知っているのではなく、ビジネスの理解度が重視される」と強調。「コア・コンピテンスを見極め、そのほかのシステムに汎用的なソフトを利用すれば、情報システム部門は自社のコア・コンピテンスを支援するシステムの構築に集中できる。忙しい情報システム部門がより一層、経営に貢献できるようになる」(ダイクス氏)とした。